「山P……? 本当に山Pなの?」
泣きながら抱きついてきた彼女に対して、どんな言葉を返して良いのか分からなかった。彼女は私の顔をまじまじとながめながら言った。
「本当に、16のときに会った山Pのままなんだね」
――改めて彼女を見ると、二重瞼で鼻筋の通った美しい顔をしている。肌も綺麗で、私より一回り以上も若く感じられた。
ただ、外見が変わっても、彼女は、私が仕事について教えた真理であることが分かった。何十年ぶりかに会う同級生の外見が大きく変わっていたとしても、すぐに誰だか分かる感覚に近いかもしれない。
「お、お前は」
同い年なのだから本来は「あなたは」と言うべき場面なのだろうが、16歳の真理と接していた癖で、つい役割語が出てしまった。
「お前はハニーズでスカウトされたあと、どんな人生を歩んだのじゃ?」
真理は何も答えず、じっと私の顔を見つめてきた。
その瞬間、頭の中で相沢の、
(直接本人に聞いた方が良いでしょう)
という言葉がこだました。嫌な胸騒ぎを感じた私は、答えをせかすようにたずねた。
「お前は――アイドルになるという夢をかなえて幸せになったのじゃろ? ワシの教えによって、お前は幸せになったんじゃろ?」
すると真理は、じっと私の顔を見てから、
「やっぱり山Pだ! 昔に戻ったみたいだよ!」
と再び私に抱きついて頬をぐりぐりと押しつけてきた。私が教えた内容を50年間実践すると、同じ人間の性格をこれほどまでに変えてしまうのだろうかと、ぼんやりと考えていた。
テーブルに用意されていた、紅茶の入った白いティーカップを手に取り、
(これは、現実のものなのか仮想現実のものなのか、どちらなんだろう……)
いぶかしみながら飲んでいると、真理が言った。
「山Pは――自分の人生に後悔しているんだよね?」
その言葉を聞いた瞬間、ティーカップを持つ手が震え出した。私は、先ほど巨大スクリーンに映し出されていた、ハニーズで真理がアイドルにスカウトされるシーンを思い浮かべながら言った。
「当然じゃ。後悔していたからこそ、16歳のお前に会いに行き、ワシが実現できなかった夢をかなえる方法を教えたのじゃ」
白い壁で覆われた部屋に、私の声が響く。
私は手を横に振り、興奮した口調で続けた。
「ワシのことはどうでもええ。お前があのあとどうなったかを聞いておるんじゃ」
すると真理は、
「そうだよね」
とうなずいたがすぐには答えなかった。
それから、言葉を選ぶようにして、ゆっくりと続けた。
「山Pから教わったことは、本当に夢をかなえる力があった。だから私は、ほとんど全部の夢をかなえることができたんだ。でも――」
真理が言葉を止めて顔をうつむけたので、「でも?」と繰り返して先をうながす。
真理は顔を上げて言った。
「幸せには、なれなかったんだよ」
好きを送るためにログインしよう!
評価
良いと思うところ
なんというかものすごく辛いです(T_T)
夢を叶えて幸せになれないなんて
そんなことは考えたこともなかったです。
夢を叶えてるのに幸せじゃない
人なんて本当にいるんでしょうか…?
信じれませんが、続きすごく
楽しみにしています!
良くないと思うところ
やはりタイムトラベル?ものは
ぐちときどきどちらが話しているのか
わかりにくいときがありますね(・・;)
20代の頃~のセリフは
山Pじゃない方の真理ちゃんで合ってますか?
あと、とぼけた鳥ということは
この先少し笑いの要素が
入るのですか(*_*)?
だとしたらだいぶシリアスな
場面から急に緩くなるので
ちょっと拍子抜けしてしまうかもです(*_*)
2人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年5月22日 22時32分 水野敬也そうですね、二人の会話は同一人物でもあるので非常に難しいところです。途中からアイドルになった方を「真理」と書くことで違和感がなければそれでいこうかなと思っています。引き続きよろしくお願いします。
評価
良いと思うところ
見つけたくない
良くないと思うところ
とても辛いですが、次も読みます!
かおり1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。今後の展開でどう落としどころを見つけるか色々苦労しそうですが、引き続き読んでいただけたらと思います。よろしくお願いします。
2018年5月22日 22時33分 水野敬也評価
良いと思うところ
まりちゃんの進んできた道がいじらしく可愛く感じました。『教え』を体得したら、(自分が感じる幸せ度はちょっと横に置いといて)周りに希望を与えられると切に思わせてくれて^ ^
整形の話、複雑な気持ちなんですが、山Pの悲壮さをかきたてるべく、不謹慎かもしれないけれど面白かったです。
良くないと思うところ
役割語を外すと一瞬どちらが言ってるのかと思いましたが役割語を外したおかげでより臨場感あって結果的によかったかなぁと。
Shiho☆山P、幸せになれなかったことを知りたいなんて、、、何も知らないでいることよりもずっと切なく虚しくて。変わりように動揺したけれど同情も。。。青い鳥…どれだけ奇妙なんだ大きいんだ⁈も含めてこの先がすごく気になり、早く知りたいですー^_^
1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年5月22日 22時33分 水野敬也この先どうなるか、前編とのバランスが難しいですが頑張りますのでよろしくお願いしますー!
評価
良いと思うところ
ずっと後編を楽しみにしていて、この後編の第1話ですでに涙が止まりませんでした。
自分の普段の生活で「あの時ああしていれば・・・」「どうしてあの時こっちを選んでしまったのだろう・・・」と考えるばかりで、現実の今の自分ではなく、選ばなかった方の生き方ばかりに思いをはせることがあります。
山Pの言葉が自分から出てきているようで、たまらない気持ちになりました。
第1話の最後の巨大な青い鳥の登場にはびっくりしましたが、これこそが水野さんの作品らしさのような気がします。
次回も楽しみです。
良くないと思うところ
前編がとても長く感じましたが、スマホやパソコンで読むからでしょうか・・・
さちべえ単行本になればそんなに長く感じないのかな・・・と思います。
1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。このコメントすごく大きなヒントがありました。
2018年5月23日 22時16分 水野敬也整形というネガティブなスタートから始まりましたが、真理の夢に対するスタンスはより感動的な流れにできる気がしてきました。
真理がどういう人生を歩んだか、その歩み方に山Pがどう感じるかを「感動」にもっていければ後編の「はしご外し感」を薄められる気がしてきました。ありがとうございます。
評価
良いと思うところ
なんと!夢を叶えることと幸せになることは別なんですね!
輝いていることを実感することと幸せを感じることも別なんですね...。また前回トンチンカンな感想を出して恥ずかしくなりました。
あと、因果関係のところ、なぜか真理ちゃんの説明、良く解って真理ちゃんに美容整形に関する決断とは比べ物にならない位小さなくだらないことなんですけど(例えば、運動しないと痩せないとか、夫とまた恋人らしく過ごすには、自分の方から恋人らしく振舞わないといけないとか)早速実践に応用してみました。新たな目標ができて毎日楽しくなりました。
良くないと思うところ
子供に関する記述がなんとなく気になりました。
Rieすごく細かいことなんですが
「20代の自分を選び、子供を産む人生を選ばせること」
ですが、子供を「産む」というところが気になりました。
子供を産まなくても、代理母や養子縁組などで、子供を持つことができる時代になっていますし、今後もっともっと技術は発達していくと思います。そもそも真理ちゃん自身が器質的に子どもが産めない体かもしれません。。。それでも、子供を持つことはできるので、人生の選択肢としては、子供を産むか産まないか、ではないんじゃないかなと思いました。じゃ、なんなのか、がわからないんですが、子供を持つか持たないか、なのかな。。。
あと、山P、「20代の自分を選び、子供を産む人生を選ばせること」をせずに、16歳に会いに行ったところが格好いいし、子供を持たなかったことは山Pの後悔の一つかもしれませんが、最大の後悔と言ってもいいというところに今まで思ってたキャラと違う感じがして驚きました。
「良くないと思うところ」ではないんですが、子どもに関する件、今後、どのように回収されていくのか楽しみです。
1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年5月27日 18時2分 水野敬也子どもに関しては、すごくデリケートな部分なので感想ありがたいです。
「子どもを持つ」という言い回しにして、養子など色々な可能性を含む表現にした方が良さそうですね。子どもは現代的な悩みなので色々考えながらブラッシュアップしていきたいと思っています。今後ともよろしくお願いします!