仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 後編 第2話

 真理はゆっくりとうなずいてから、私の手から球体を取った。

 「私は、アイドルになったらどんなに素晴らしい人生が待っているかを繰り返し想像した。そして山Pの教えは、とにかくこの光を強めることだった」

 真理は球体の光の部分を――闇が一切こぼれない、完全な満月の状態を――こちらに向けた。

 「この光が強まれば強まるほど、エネルギーが生まれる。そのエネルギーは目の前の苦しみを乗り越える力になる。そして私は、この光に向かって進んでいった」

 真理は言った。

 「有名になれば、周囲の人から認められ、最高に気持ち良い状態が待っていると思ってた。でも有名になることは、どの場所にいても周囲の人の視線を気にしなければならないということだった。『売れなくなる』ことがこんなに大きな恐怖になるとは思わなかったわ。有名になるということは、自分の失敗をすべての人にさらすようなことだから」

 真理は続ける。

 「誰からも認められる理想の男性と付き合うことができたら素晴らしい人生が待っていると思ってた。でも、実際に付き合ったら、恋愛をしながら周囲の期待にこたえ続けることがいかに苦しいか分かった。恋愛で一番大事なのは心地よさのはずなのに、彼と付き合っているときはそれを感じることができなかった」

 真理は続ける。

 「美しい顔を持てば素晴らしい人生が待っていると思っていた。でも、美しさは嫉妬や憎悪の対象になることが分かった。私は美しい顔を持っていなかったから、その裏側にある闇を想像できていなかった」

 そして真理は言った。

 「今、私が言った『美しい顔』という表現は間違っているかもしれないわ。本来は、どんな顔であれ自分の顔は美しいはず。正確に言うなら、私は、『世の中で美しいとされている顔』ではなかった」

 真理の持つ球体の反面が彫刻のような顔になっていた。しかしその向こう側は黒い闇に染まっている。

 真理は続けた。

 「もし、誰からも認められる存在になったら――

もし、使いきれないくらいお金持ちになったら――

もし、理想の恋人ができたら――

そうやって人は、完璧な状態を求めていく。

でも、その完璧な状態というのは、ものごとの半面だけを見ることでしかない。

世界はあくまで――月がそうであるように――光と闇で作られているものなのだから」

 私は、真理の言葉が間違っているとは思わなかった。

 光があれば闇もある。それが世界の正しい姿なのだろう。

 それでも私は彼女の言葉を飲み込むことはできなかった。

 「でも」

 私は心の奥から突き上げてくるような言葉を彼女に向かって投げかけた。

 「それはあなたが夢をかなえたから言えることでしょう。私は、まだ、あなたみたいに、夢をかなえていないから……」

 真理は何も言わず、ただ、タブレットを操作した。

 タブレットから映し出されたのは、16歳の私の映像だ。

 すでに日が落ちて、夜空に満月が浮かんでいた。

 桜華山高校の制服を着た私は、改札口を出たあと家に向かって走り始めた。

 笑いながら両手を振って走っている。

 ああ、私はこの日を知っている。

 これは、ハニーズの面接に受かった日のことだ。

 この日、私は、夢をかなえたのだ。

 ――ハニーズの仕事に問題があるわけではない。16歳の真理に教えたように、その仕事を楽しむための方法もある。ただ、少なくとも、私が思い描いたハニーズでなかったのは、事実だった。

 その夢が大きいか、小さいかの違いはあるかもしれない。

 でも、私自身、人生の中で夢をかなえ続けてきたのだ。

今いる場所ではない、どこかに光り輝く満月のような場所があると思い、そこに向かおうとし続けてきた。

私はそれを繰り返しながら生きてきたのだ。

今いる場所を「闇」だと考えて、そして、ここではないどこかに「光」があるのだと考えて。

 私はその場に崩れ落ちて言った。

 「どうしたら――」

 私はうつむいたままつぶやくように言った。

 「私はどうしたら幸せになれるの――」


 

「真理 —成功と幸福の秘密を知ったアイドル」は毎週月曜日に更新します。

次回の更新は6月4日(月)です。

 

 

好きを送るためにログインしよう!

REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

誰もが一度は鳥のように羽ばたきたい願いにかけて、「サトリ」がうまく光と闇、希望と絶望の教えを導いてくれたなぁ、さすが「悟り」だ(笑)と思いました。
偉人での例えがわかりやすくて、発展の真実を教えられた気分です。
でもそのお陰で物理的な暮らしやすさの面で成熟した社会になれたと思います。

良くないと思うところ

(よくないということではなくて)夢を追いかける、初心を貫く上で、マイナスの影、闇となる要因も同時に考えるべきなのかなあ、夢にブレーキをかけることにならないかと考えさせられました。それをも乗り越える、ひっくるめて運命とするのかなと。その闇の面をうまくコントロールするこれからの教えが山Pを癒してくれるのかなぁと思っています^ ^
また、こうなりたいと思うことで、頑張れるし、影があるからこそ、光が見えると思いたい。

Shiho☆
2人がこのコメントに「いいね!」しました
水野敬也ぐち
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。そうですね、夢とのバランスを大事にしながら最後まで書き上げたいです。引き続きよろしくお願いします!

2018年6月3日 18時17分 水野敬也
水野敬也
評価

12334

良いと思うところ

夢の光と闇がはっきり書かれていて
確かにと思うことがたくさんありました。
私の身近にもそういう人がいました。
看護師やパティシエを夢見て叶えたけど
実際の仕事にしたら辛すぎて
辞めてしまったとか…。
私たちから見えてる夢を叶えた人の
輝きの裏には必ず闇があるんですね。
どんな人でも必ず悩みがあるのと
同じですね。

良くないと思うところ

ちょっと疑問に思ったのですが、
例えばスポーツ選手なら
金メダルをとるとか野球だったら
メジャーに行くとかそういう夢を見ながら
日々練習していると思うのですが
それも叶えてしまったら今度はプレッシャーと戦う日々だったりして
闇の部分が出てくるという感じですよね?
確かにその闇の部分は私たちの想像以上に
苦しいとは思いますが、それ以上に
もっとうまくなりたいとか、
結果を出したい気持ちが強くあるからこそ
闇を越えれるくらい輝けるんだと思います
そういう人たちはやはり
とても幸せそうに見えますが
これはただ一部の才能があるだけの
人なのでしょうか?
それとも、これから
書かれる幸せになる方法も
同時に叶えてる人たちなのでしょうか?

水野先生が前半最後で夢を叶えることに
迷いがない人は後半の物語は必要ないかもしれないとおっしゃっていたので
私が思う夢を叶えた人はそういう
人なのでしょうかね…。

ちょっと色々と極端なことを
書いてしまったかもですが、
私は幸せになる方法すごくすごく
気になります。
次回も楽しみにしています!

ぐち
1人がこのコメントに「いいね!」しました
水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

スポーツ選手の例、確かにそうですね。ここはなかなか表現が難しいところですが、納得いく感じで仕上げていきたいです。引き続きよろしくお願いします。

2018年6月3日 18時18分 水野敬也
水野敬也
評価

12234

良いと思うところ

先生自身の、夢をかなえてからの苦悩が反映されているのかな?だとしたら、それを知るのも重要なこと!

良くないと思うところ

「嘘でも輝かしい未来が待っている」としないとみんながんばれないし…

「夢をかなえた自分がどんなに幸せな人間か」ということを感じて、
「人のために生きる」とかでしょうか?!!

かおり
1人がこのコメントに「いいね!」しました
水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。そうですね、ラスト、どういう読後感になるか教えていただければと思います。

2018年6月3日 18時19分 水野敬也
水野敬也
ページトップに戻る