仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 後編 第3話

 真理は小さく首を横に振って言った。

 「『なれた』という言い方は間違っているわ。だって、幸せになるのは、今この瞬間にできることだから」

 そして真理はサトリの羽毛の中からあるものを取り出した。

 それは、私が16歳のときに使っていたキャンパスノートとペンだった。

 真理はこちらにノートとペンを差し出して言った。

 「今度はあなたがメモを取る番ね」

 私がノートを受け取って開くと、真理は言った。

 「あなたが幸せになるために、何よりも大事なのは、『気づく』こと。あなたは幼いころから、『周囲の人から評価される』ことを目指してきた。もちろん、周囲の人から評価されれば『快感』が得られる。でも、評価されるために自分の『価値』を高めようと努力し続けても『ありのままの自分に価値がない』という思いはなくならず、苦しみ続けることになる」

 私は、自分の裸の人形が次々に魅力的な服装を身にまとっていく様子を思い出した。

 人から評価されるもの――高級なブランド品やお金、環境――人から「うらやましい」と思われるものを手に入れたとしても、裸の自分に自信がない私は、いつも不安で震え続けることになる。

 真理は言った。

 「生身の自分に価値を感じるためには、『心地良さ』を大事にしてほしいの」

 「心地良さ……」

 私がノートにメモをすると真理は続けた。

 「人の評価を気にしすぎる人は、自分にとって心地良いことや居心地の良い場所を軽視しがちになる。でも、人から評価されるために努力を続けても、不安や苦しみが続くことが理解できれば、今よりもずっと自分の心地良さを大事にできるはずよ」

 真理の言葉をメモしながら、私はこれまでの人生を振り返った。

 自分の好きなことをしたり休んでいたりするときも、常に頭の片隅には、

 (こんなことをしていて良いのだろうか)

 という不安があった。

 それはつまり、

 「こんなことをしていても、周囲の人から認められないじゃない」

 という不安だったのだ。

 「サトリの上で横になってみて」

 真理に言われてノートを取るのをやめ、体を横たえた。

 サトリの羽毛に包み込まれ、体の芯から癒される感じがした。

 真理が言った。

 「そのまま横になっていると、色々な考えが思い浮かんでくると思うわ。そのたびに、サトリと触れている体の部分に意識を向けてみて」

 しばらくすると、真理の言ったとおり考えが思い浮かんできた。

 その中でも特に強い思いは、過去に対する後悔だった。

 もし真理が言っていることが正しいのなら、どうしてそのことに早く気づくことができなかったのだろう、そのことに気づいていれば、私にはもっと違った人生があったんじゃないだろうか――。

 しかし、真理に言われたとおり、そんな考えが思い浮かぶたびにサトリと自分が触れている場所に意識を向け、心地良さを感じていった。

 それを繰り返していくと、次第に手足がゆっくりと重くなっていき、私は深いリラックス状態になっていった。

 それは――私が今までの人生で感じたことのない安らぎだった。

 真理の穏やかな声が聞こえた。

 「瞑想、マインドフルネス、自律訓練法……昔から色々な呼び方をされてきたけど、今、あなたが感じている深いリラックス状態のことを指しているの。

不安とは『未来』に対するもの。

後悔とは『過去』に対するもの。

それはつまり、『今、この瞬間の心地良さを忘れている』ということだから」

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

最初の方は何回も読んでいるうちに段々理解できてきました。
とくにあきらめと受け入れるが
同じって言うのはなかなか刺さりました(*_*)
私自身いろんなことがあきらめられなくていまだに苦しみ続けています。
でも夢を叶えるのと幸せはまた少し
別のところにあるのが理解できたので
スッキリして良かったです!

良くないと思うところ

最後の方のさとりは何度読んでも
なかなか理解が難しいです(>_<)


ぐち
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水野敬也
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 著者からの返事

感想ありがとうございます!さとりの難しい部分、具体的に教えてもらえると色々直し甲斐があるので、次回のコメントでも良いので教えてもらえるとうれしいです!よろしくお願いします!

2018年6月6日 17時23分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

五感の欲求、幸せは努力や運で満たすことは出来ても、外気に、世界に触れることがない「心」からの幸せを感じられることは奇跡のように思えてきました。鮮明に感じられることでないというか…。

今心地よさを感じとれているか、、、シンプルな感覚が究極と気づかされて、ホワッと軽くなった気分です(^-^)

「完璧ではない他者を受け入れる……」ことが遥か昔から(夫婦、家族とか、、)『つながり』が自然に出来てきたから繁栄してきたのだなぁ、これらの真理が明るい未来に続くための永久に遺す道しるべのように感じます。

自分なりにですが、感じとれたことが、この回がとても素晴らしく、思い巡らしていきたいと思います^ ^

良くないと思うところ

心から感動したのですけど、楽しむ余裕がありませんでした。。。(^^;;

「心地よさ」を感じることが、自分を支えている、つながりを支えているという実感が出てくればなぁと思います。


Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かに後半は理屈だけを説明しているので、もっと自分にとってどうか、という部分に焦点を当ててみたいと思います。引き続きよろしくお願いします!

2018年6月6日 17時24分 水野敬也
水野敬也
評価

12334

良いと思うところ

「気づくことが大切」というのは、「夢をかなえるゾウ」と同じかな?と思いました。

「自然」と「人間」の関係について、この物語に書かれているようなことを、多くの人が感じているでしょう。

「でも止められない」「自分は無力だ」「権力から逃れられない」「なぜなのか?」

そのような自問自答に答えてくれて、多くの方が納得する物語があれば、ヒットするのかな?と思いました。

良くないと思うところ

楽しいから小説を読む、物語を読むのですが、これは全く楽しくない!

かおり
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かに後編と前編を読んだうえで楽しめるか、が大事なので色々考えながら直しに入りたいと思います!

2018年6月7日 23時20分 水野敬也
水野敬也
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12345

良いと思うところ

私自身、夢に向かってがむしゃらに行動した後、あきらめたことがあります。
でも、その「あきらめ」がなぜかネガティブな感じではなかったので、この気持ちなんだろう・・・と思っていたのですが、作品中の「受け入れる」という言葉で腑に落ちました。
夢に向かって頑張っても全然期待したとおりの結果にならなかったけど、「あきらめ」て、「受け入れる」には、結果がどうであれ、行動するしかないのかもしれません。
「受け入れる」という言葉には、「自分の限界(または自分の役割)を知る」ということも含まれるでしょうか・・・

作品中ではタブレットがいろいろな景色を見せてくれますが、真理と山Pの人生を二つの大きなスクリーンで同時に映画のように見ることができたら、そこには二人?がそれぞれの人生を健気に懸命に生きている姿があるような気がして、とても愛おしいです。

良くないと思うところ

最後の「さとり」の状態、すべては全体の一部であり、つながっているという部分はとても壮大で、哲学的な感じがしました。
次回、どのように話が展開していくのか楽しみです。

さちべえ
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かにタブレットから出てくる映像とスクリーンなど厳密にまだ決めれてないのでもう少しはっきりとさせたり、良い演出ができたらと思います。ありがとうございます!

2018年6月7日 23時21分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

 ここまで一気読みをしたのですが、すごく面白かったです。個人的には前半の勢いを殺しかねないアンチテーゼを後半に持ってきたところに痺れまして、膝と好きボタンを交互にたたきまくったのですが、好みがわかれるかもしれないとも感じました。
 前半の若い真理のアイドルを目指す過程は節々で(嫉妬や面接の雰囲気など)リアルさを感じ、これを現役のアイドルや志望者の感想・意見を取り入れたらもっと生々しさがでるのかな、と思いました。(すでにやっていたらすみません)

良くないと思うところ

 成功と幸福のバランスの問題は非常に難しいものだと思います。僕はリチャード・カールソンの『小さいことにくよくよするな』を読んで、この考えを日常生活に取り入れようと訓練していて、目標はどんな状況でも幸せを感じることですが、どうしても「成功と他者への憧れ」は自然発生的に生まれてしまいます。
 この問題は僕が今最も関心を寄せている分野なので興奮しているのですが、「サクセスストーリー好き」の方は後半でテンションが下がってしまう恐れがありますね…

HANA
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