仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 後編 第3話

  私がノートに言葉を書き込むと真理は続けた。

 「人から評価されるために努力することの裏側には、『人からバカにされたくない』『人よりも優れていたい』という気持ちが存在しているわ。それはつまり、他者に『勝ちたい』という欲求なの。でも、『勝つ』ことを目指した時点で、『負ける』ことへの不安と恐怖が生まれる。また仮に勝ったとしても、負けた側は再び勝つための努力を始める。その結果、競争は延々と続くことになる」

 真理は言った。

 「自然界には人間が人間に対して思うような勝ち負けはないわ」

 真理がタブレットを操作すると、部屋は再びサバンナの草原になった。

 草食動物に狙いを定めた肉食動物が獲物に飛び掛かっている。

 真理は言った。

 「多くの人はこの光景を見て、草食動物は肉食動物に負けていると思ってしまう。でも、もし肉食動物がいなかったら……」

 光景が切り替わり、サバンナは草食動物で埋め尽くされた。

  「そもそも、肉食動物の数は草食動物に比べてはるかに少ないわ。その意味では草食動物の方が繁栄しているとも言える」

 しかし、肉食動物を失ったサバンナではみるみるうちに植物が失われ、草食動物たちが倒れ始めた。

 「草食動物の食料である植物もまた、動物たちの排せつ物を栄養にして生きている。つまり、そこにあるのは、勝ち負けではなく『役割』なの。――もちろん自然界にも淘汰という厳しい競争があるけれど、お互いがそれぞれの役割を持ちながら『共存』している」

 真理は続けた。

 「人間が自然界で共存していた時代もあった。でも、人間の敵が人間になったとき、終わりなき競争が始まったの」

 真理がタブレットを操作すると、武装した人たちが原始生活をする人たちを殺りくする光景に切り替わった。

 「人間が他の人間に勝とうとすると、終わりなき戦いが始まる」

 次は、先ほどの文明人が他の文明人に滅ぼされる映像に切り替わった。

 時代は進み、新たな武器が開発され、その武器に対してさらに高度な武器が開発されていく。

 真理は言った。

 「たとえば、私たちがアイドルを目指していたころ、アメリカとロシアの持っている核兵器はお互い8000発を超えていたわ。相手が増やせば自分も増やすしかない。これが永遠に続いていく」

 部屋を再び白い壁に戻して、真理は言った。

 「これと同じことが個人の中でも起きているの」

 真理は、私たちが桜華山高校に通っていたころの映像を映し出した。

 「高校のヒエラルキーの頂点にいた彩花に勝つことができたとしても、東京に行けばさらに可愛くて魅力的な女の子がいる。アイドルとしてデビューできても芸能界にはさらに売れている子がいる。日本で売れたとしても、世界的に見たら――。再び、自分の価値は、桜華山高校のころ同じ状態になる」

 ヒエラルキーを現すピラミッドが徐々に変化していく。その映像はまさに終わりのない競争であり、真理がその激しい競争を生き抜き、苦しみ続けてきたのかと思うと胸が締めつけられた。

 「この競争から抜け出るためには――」

 真理は映像を消し、私に顔を向けて言った。

 「私たちには、打ち負かすべき敵は存在しないことに気づく必要がある。そのために、『つながりを意識する』のよ」

 真理がタブレットを操作すると、海の上で舟を漕ぐ男女の映像が映し出された。

 (イラスト)

 「これは4万年前に大陸から海を渡り、初めて日本にやってきた人たちの映像よ。黒潮という早い海流の上を200キロ以上移動するのは、当時では人類史上でも困難な航海の一つだと言われているわ」

 映像では、草で作られた心元ない船の上で10人の男女が必死に櫂をこいでいた。

 真理は言った。

 「この人たちが、すべての日本人の先祖なの。私たちは、すべて、この人たちの子孫なのよ」

 船がバランスを崩し、一人の女性が船から落ちた。他の人が必死に彼女を船の上に引っ張り上げている。もし彼女が失われるだけで、日本人の歴史は大きく変わってしまうことになっただろう。

 真理はタブレットを操作して映像を切り替えた。

 「えっ……」

 新たに映し出されたのは彩花だった。

 真理は言った。

 「たとえば彼女も、あなたにとっては『敵』かもしれない。でも……」

 真理がタブレットを操作すると、彩花はどんどん若返って言った。いや、若返るだけではなく、どんどん小さくなり、最後は小さな球体になった。

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

最初の方は何回も読んでいるうちに段々理解できてきました。
とくにあきらめと受け入れるが
同じって言うのはなかなか刺さりました(*_*)
私自身いろんなことがあきらめられなくていまだに苦しみ続けています。
でも夢を叶えるのと幸せはまた少し
別のところにあるのが理解できたので
スッキリして良かったです!

良くないと思うところ

最後の方のさとりは何度読んでも
なかなか理解が難しいです(>_<)


ぐち
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます!さとりの難しい部分、具体的に教えてもらえると色々直し甲斐があるので、次回のコメントでも良いので教えてもらえるとうれしいです!よろしくお願いします!

2018年6月6日 17時23分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

五感の欲求、幸せは努力や運で満たすことは出来ても、外気に、世界に触れることがない「心」からの幸せを感じられることは奇跡のように思えてきました。鮮明に感じられることでないというか…。

今心地よさを感じとれているか、、、シンプルな感覚が究極と気づかされて、ホワッと軽くなった気分です(^-^)

「完璧ではない他者を受け入れる……」ことが遥か昔から(夫婦、家族とか、、)『つながり』が自然に出来てきたから繁栄してきたのだなぁ、これらの真理が明るい未来に続くための永久に遺す道しるべのように感じます。

自分なりにですが、感じとれたことが、この回がとても素晴らしく、思い巡らしていきたいと思います^ ^

良くないと思うところ

心から感動したのですけど、楽しむ余裕がありませんでした。。。(^^;;

「心地よさ」を感じることが、自分を支えている、つながりを支えているという実感が出てくればなぁと思います。


Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かに後半は理屈だけを説明しているので、もっと自分にとってどうか、という部分に焦点を当ててみたいと思います。引き続きよろしくお願いします!

2018年6月6日 17時24分 水野敬也
水野敬也
評価

12334

良いと思うところ

「気づくことが大切」というのは、「夢をかなえるゾウ」と同じかな?と思いました。

「自然」と「人間」の関係について、この物語に書かれているようなことを、多くの人が感じているでしょう。

「でも止められない」「自分は無力だ」「権力から逃れられない」「なぜなのか?」

そのような自問自答に答えてくれて、多くの方が納得する物語があれば、ヒットするのかな?と思いました。

良くないと思うところ

楽しいから小説を読む、物語を読むのですが、これは全く楽しくない!

かおり
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かに後編と前編を読んだうえで楽しめるか、が大事なので色々考えながら直しに入りたいと思います!

2018年6月7日 23時20分 水野敬也
水野敬也
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12345

良いと思うところ

私自身、夢に向かってがむしゃらに行動した後、あきらめたことがあります。
でも、その「あきらめ」がなぜかネガティブな感じではなかったので、この気持ちなんだろう・・・と思っていたのですが、作品中の「受け入れる」という言葉で腑に落ちました。
夢に向かって頑張っても全然期待したとおりの結果にならなかったけど、「あきらめ」て、「受け入れる」には、結果がどうであれ、行動するしかないのかもしれません。
「受け入れる」という言葉には、「自分の限界(または自分の役割)を知る」ということも含まれるでしょうか・・・

作品中ではタブレットがいろいろな景色を見せてくれますが、真理と山Pの人生を二つの大きなスクリーンで同時に映画のように見ることができたら、そこには二人?がそれぞれの人生を健気に懸命に生きている姿があるような気がして、とても愛おしいです。

良くないと思うところ

最後の「さとり」の状態、すべては全体の一部であり、つながっているという部分はとても壮大で、哲学的な感じがしました。
次回、どのように話が展開していくのか楽しみです。

さちべえ
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。確かにタブレットから出てくる映像とスクリーンなど厳密にまだ決めれてないのでもう少しはっきりとさせたり、良い演出ができたらと思います。ありがとうございます!

2018年6月7日 23時21分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

 ここまで一気読みをしたのですが、すごく面白かったです。個人的には前半の勢いを殺しかねないアンチテーゼを後半に持ってきたところに痺れまして、膝と好きボタンを交互にたたきまくったのですが、好みがわかれるかもしれないとも感じました。
 前半の若い真理のアイドルを目指す過程は節々で(嫉妬や面接の雰囲気など)リアルさを感じ、これを現役のアイドルや志望者の感想・意見を取り入れたらもっと生々しさがでるのかな、と思いました。(すでにやっていたらすみません)

良くないと思うところ

 成功と幸福のバランスの問題は非常に難しいものだと思います。僕はリチャード・カールソンの『小さいことにくよくよするな』を読んで、この考えを日常生活に取り入れようと訓練していて、目標はどんな状況でも幸せを感じることですが、どうしても「成功と他者への憧れ」は自然発生的に生まれてしまいます。
 この問題は僕が今最も関心を寄せている分野なので興奮しているのですが、「サクセスストーリー好き」の方は後半でテンションが下がってしまう恐れがありますね…

HANA
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