心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第4話

 サマーセールが終わると客足も減り、店内はいつもの落ち着きを取り戻していった。私は来客数が少ない平日に、休みを取ることにした。

 その日の昼ごろ、私は守口さんの家へ向かっていた。強い日差しの下、日傘をさして歩いている。湿気が身体にまとわりついて蒸し暑かった。

 守口さんの家に到着すると、にこやかな様子でいつもの部屋に案内された。促されて、テーブルから椅子を引いて腰かける。暑い中歩いてきたので、冷房の風が気持ちいい。

 この間、守口さんは怒っていた店長の気分をまるで手品のように変えてしまった。私は感情のコントロールを自分でできる方法を知りたいと思った。

 守口さんがうちの店で購入した淡い緑色のカーテンは窓の両脇にまとめてあった。そのせいでカーテンに施されている渦巻きの刺繍はいびつな形に感じられた。

 守口さんがカップを盆にのせて、コーヒーの香りとともにやってきた。テーブルに並べられたホットコーヒーを見て、季節感のなさにクスリと笑ってしまう。守口さんがにこやかな表情で向かいの椅子に腰かけた。私は会釈をすると、ミルクポットを手に取った。守口さんが私の様子をじっと見つめている。

「わかっています」

 私はうなずいた。まずコーヒーをかき混ぜる。液体の流れにのせてミルクを注ぐと、白い渦が描かれていく。

 守口さんは満足そうな様子でうなずいた。ゆっくりとコーヒーを飲む時間が流れた。冷房の風が汗のにじんだ額をなでた。

「今日は店長さんに行った方法より一歩進んだやり方をお伝えしようかと思いまして」

 先に守口さんが口を開く。なぜ私には他の方法なのだろう。

「この間、実践したのは基本的なことなんです。今回はもう少し、応用的なものをお教えしますね。きっと若月さんに合うものだと思います」

「よろしくお願いします」

 私は頭を下げた。

「店長さんと同じこの間の出来事で実践しましょうか? 少し時間が経っていますが覚えていますか?」

 私はうなずいた。あれからもう一週間ほど経っていた。しかし、記憶にしっかりと残っている。

「以前もお話ししたように、実際は紙に書くことが一番効果のある方法なんです」

 守口さんはテーブルの隅に置いてあった用紙を私の前に差し出した。

「こちらがアセスメントシートというものです」

 守口さんは、アセスメントシートに取り組んでいくと自分に起きた状況を整理できて、客観的に観察する力を身につけることができるようになると説明した。そしてこの過程はアセスメントと言うらしい。

 アセスメントシートには七つの項目があり、それぞれ書き込めるスペースがあった。


 1. ストレス状況(環境)


 2. 認知(考え・イメージ)*自動思考を含む


 3. 感情や気分


 4. 身体反応


 5. 行動


 6. サポート資源


 7. コーピング(対処)



「1の“状況”と2の“認知”って、店長も実践していたことですよね。無意識に湧き上がってくる考えについて話していたと思うんですけど」

 あの時、私は店長のいつもと違う一面を知って驚いた。他の視点を考えるきっかけになった出来事だった。

「覚えていたんですね。すばらしい。では“状況”と“認知”から書いてみましょうか。あなたの視点で考えてくださいね。同じ出来事でも店長さんとあなたでは、受け止め方はまったく別ですから」

 守口さんに言われたとおりにアセスメント・シートを記入していった。


(単行本ではアセスメント・シートのイメージが入る予定です)


好きを送るためにログインしよう!

REVIEWS

評価

12344

良いと思うところ

愚痴聞き屋さんのところに行くまで間の、佳歩ちゃんの気持ち一つ一つが細かく丁寧に書かれているところは、会って話す、施術後のより安心感、安堵感をもたらしている感じがします。
相乗感テクというか、さすがだなぁと思います。

普段、自分の心の整理にほんの少しでも日記や心情を書き出すと俯瞰できる、些細なことであればそれでもやもやを取るのに有効と思ってしているので、読み進めて行くうちに、日記に繋がりそうな手法だなぁと思っていたら、ラストに”日記”が出てきてちょっと嬉しかったです。

また、具体的な心理療法はタメになりましたし、いつも言葉のタッチが優しいところはあらためて普段から心がけていきたいと思いました。

そういえば、、、カタツムリもうず巻いて^ ^カタツムリ日記… 佳歩ちゃんらしくてイイですね。

良くないと思うところ

”反証が多ければあなたが思い浮かんだ自動思考は事実に反するものということになります”の部分があまり理解できませんでした。。

また、反証の5つの内容は、事実と違うことを書いているのか、これで反証になるのかよくわかりませんでした。

また、お返事頂けるのありがたいですが、次回アップに合わせてで無くても更新に合わせて小説読むよう意識しているので大丈夫です^_^

Shiho☆
まだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価

 著者からの返事

Shiho☆様

コメントとてもうれしいです!
反証の内容についてご意見ありがとうございました。
もっとわかりやすい表現ができるように精進してまいります。
貴重なご意見を送ってくださって本当に有り難いです。

これからもよろしくお願いいたします。

2018年8月30日 22時23分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
評価

12345

良いと思うところ

とても面白かった。
いよいよ本題に入ってきたなという感じ…

描写が丁寧で、文学を感じる。

「ホットコーヒーを見て、季節感のなさにクスリと笑って」というのも良かった。そっか普通は、冷たい麦茶とかかな?と…

「カタツムリ日記」というネーミングには、笑ってしまった。
この女性はちょっと、天然で鈍感かも…
だから、あんな職場を辞めないで、ずっと続けているのかもしれない…

とても楽しめたし、「認知行動療法」というのも興味深い。

本が成功すればいいなと思う。

良くないと思うところ

この人はこんなクソ店長の元、苛酷な労働環境で働く必要があるのか?

もっと違う選択があるのではないか?

この環境を自ら打開することができたら、その方がもっと素晴らしいけれど、つぶれてしまう可能性のあるし…

かおり
まだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価

 著者からの返事

かおり様

コメントありがとうございます!
「もっと違う選択肢があるのではないか?」というご意見参考にさせていただきこれからお話を作っていければと思っております。
いつも貴重なご意見を送っていただきまして本当にありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

2018年8月30日 22時29分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
ページトップに戻る