心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第5話


「アセスメントシートも慣れてきたようなので、先に進みましょう。新しい方法をお教えしますね」

 守口さんの言葉と同時にメッセージの着信音が鳴った。マナーモードにするのを忘れていたのだ。

「すみません」

 私は慌てて、鞄からスマートフォンを取り出す。

「全然、いいんですよ。メッセージ、確認しちゃってください」

 音を消して鞄にしまおうとしている私に守口さんは言った。

「すみません」

もう一度お詫びを言って、確認するとみのりちゃんからの長文メッセージだったのでため息をついた。右隣に気配を感じたので目を向けると、守口さんが私のスマートフォンを覗いていた。

「何やってるんですか?」

 私は驚いて隠すようにスマートフォンの画面を伏せた。

「すみません。若月さんのため息の原因を知りたくて……」

「気にかけていただいてありがとうございます」

 心配してくれたのかと動揺していた気持ちを落ち着かせる。

「だって、新しいグチが聞けるのではないかと思うと放ってはおけませんよ」

 その言葉を聞いて、気づかいではなかったことにがっかりした。

「お忘れですか? 僕はグチ聞き屋なんですよ」

 守口さんは満面の笑みで言った。そうだった。私は最初、グチを聞いてもらうためにここを訪ねたのだった。

「実は仕事以外のことなんですけど……」

 守口さんが私に興味津々な顔を向けている。私は、一呼吸するとみのりちゃんのことを話しはじめた。

「……その人、佳歩の彼氏?」

 みのりちゃんは私の隣にいる人を見ていった。

「ちがうよ。これにはちょっと事情があって……」

 向かいに座っているみのりちゃんに私は慌てて否定した。

「どうもお邪魔しています」

 私の隣に座っている守口さんがにこやかにお辞儀した。

「どうも」

 みのりちゃんは怪訝な顔のままで軽く会釈した。

「突然すみません。ぜひ僕も従姉妹会に参加させていただきたくて」

「失礼ですけど、あなたがいると従姉妹会じゃなくなるんですけど」

 みのりちゃんはもっともなことを言うと、不満げな顔を私に向けた。

 この間、守口さんにみのりちゃんのことを話すと興味津々な様子で聞いていた。話しを終えてから守口さんは従姉妹会に参加したいと言ってきたのだった。

「実はね、みのりちゃんと会わない間グチを聞いてもらっていた人なんだ。守口さんていうんだけどグチを聞くお仕事をしている人なの」

「三度の飯とグチが好き。グチ聞き屋をしております守口と申します」

 私が戸惑いながら紹介すると、守口さんは挨拶をした。

「すごくグチを聞くのが上手なの。さすがプロだなって感じ」

 本当のことだ。私が身をもって体験しているから嘘じゃない。みのりちゃんもつらい現状を乗り越えるきっかけになればと、この場に守口さんを連れてきたのだ。

「僕、グチを聞くのが誰よりも得意なんですよ」

 みのりちゃんは守口さんを不審そうな目で眺めている。守口さんは聞き上手なのに、自分のアピールがものすごく下手だ。私が最初に会ったときも、みのりちゃんのような目で守口さんを見ていたに違いない。

 しばらくの間、みのりちゃんは守口さんに視線を向けていた。

「いいわ。佳歩が連れてきたんだもん。信用する」

 きっぱりと言った。

「でも、私が不快になるようなことはやめてくださいね。『生意気』とかそういう私を否定するようなことは言わないでください」

「もちろん、お約束いたします」

 守口さんは微笑んだ。私は隣でふたりのやり取りをうかがいながら胸をなでおろした。


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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

まあ、早く続きを読んでみたいです!

良くないと思うところ

いとこも同じ悩みを抱えているって、ちょっとゲンナリしました。

いとこの上司もクソって、なんか上司は全員クソかもしれませんね!(笑)

かおり
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コメントの評価

 著者からの返事

かおり様
コメントうれしいです!
ありがとうございます。

主人公の性格といとこの性格が違うので、同じ悩みでも反応が変わってはくるのですが……。
ゲンナリさせてしまって反省です。
精進いたします。
これからも頑張ります。

2018年8月30日 22時39分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
評価

12344

良いと思うところ

自己肯定感が高く、負けん気が強そうな女性でも苦手な人はいるんだ、誰も平等に悩みを抱えて頭を抱えるところに少しホッとしました(*´꒳`*)

愚痴聞き屋さんの療法で、佳歩ちゃんにしかりみのりちゃんにしかり自ら逃げ出す(転職する)ことなく、うまく職場と調和をとれる、職場環境をよくする2人に変わって欲しいなあ、、、どんな風に変わっていくか楽しみです(^^)

佳歩ちゃんがみのりちゃんのために愚痴聞き屋さんを紹介したことは、佳歩ちゃんの持ち前の優しさもあるだろうけれど、愚痴聞き屋さんのおかげで佳歩ちゃんが一歩一歩着実に変わってきているところ、積極的になっているところが読めて良かったです!

良くないと思うところ

(良くないと思うところではありません)
4ページ目の、「苦しいときは客観的になった方が気分に左右されず早く問題を解決できます。上手に使いわけていくことが大切なんですよ」は本当にそうだなぁと。感情的になる前に気づけるように小説を通して変われたらと思います。
自分の、負けず嫌いでどうしても勝手な、余計な嫉妬をする性格にもかなり有効そうです^ ^

Shiho☆
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コメントの評価

 著者からの返事

Shiho☆様

コメントありがとうございます!
佳歩が変化していくところが伝わって嬉しいです!
私も感情的にならないように作品を通して勉強しています。
これからもよろしくお願いいたします。

2018年9月17日 13時40分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
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