心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第6話


⑤はね返す考え(反証)

  ・上司も間違えてしまうことがある

  ・上司は異動してきたばかりで新しい職場に慣れていない

  ・上司は異動してきたばかりなのでスタッフとの信頼関係ができていない

「佳歩がメッセージで指摘してくれたことは正しかったのかもしれない」

 みのりちゃんが今回の出来事をスマートフォンのメッセージで送ってきたとき、私は「上司も異動してきたばかりでまだ慣れていないんじゃないかな」と返信したのだった。

「いいですね。そのように思うということは客観的な視点になっているということですから」

 守口さんがみのりちゃんを褒めたので、私も嬉しくなってしまった。

「次はよくわからないわ」

「そうだね。私も何を書いていいのか迷う」

 私とみのりちゃんは⑥の『バランスの取れた考え』の印象を述べた。私達の様子を守口さんは楽しそうに眺めながら、『理由(根拠)』や『はね返す考え(反証)』から自分にとってつらい気持ちを楽にする現実的な新しい考えを作っていくのだと説明した。

「⑤の『はね返す考え(反証)』と⑥の『バランスの取れた考え』はみなさん悩むんです。そもそもすんなり思いついたらグルグルと悩んだりしませんからね」

 守口さんの言うとおりだ。すぐできればアセスメントシートも認知再構成法も必要ない。つらい気分を変えることができないから苦しんでいるのだ。

「まず④『理由(根拠)』と⑤『はね返す考え(反証)』であげた文章を「しかし」でつなげてみてください。その文章が参考になります。他には、どんな考えを持てば自分の気持ちが楽になるかという視点で考えるのもいいですね」

 守口さんの言葉を聞いて、みのりちゃんは書き出した。


⑥バランスの取れた考え

・私が上司の代わりに滞っていた業務を円滑にした。「しかし」上司は異動してきたばかりで新しい職場に慣れていない

            ↓

・業務が円滑になるように冷静に上司に相談することが必要かもしれない

「苦しかった」

 みのりちゃんは書き終えると吐き出すように言った。『はね返す考え』や『バランスの取れた考え』は本当に見つけるのが難しそうだ。人は普段、自分の考えが正しいと思ってすごしている。その思考を様々な視点で見るためには、苦痛を伴う作業だが自分の考えを否定することも必要だ。

「お疲れさま」

 私はみのりちゃんに声をかけた。私達はお互い目を合わせるとにっこりと笑った。久しぶりにみのりちゃんの笑顔を見た気がする。

「まだ、最後が残ってますよ」

 守口さんに声をかけられて私達は用紙を見つめた。残りは⑦気分(点数)だけだった。

「これって②で書いた『気分』と同じではないんですか?」

 みのりちゃんが守口さんに尋ねた。その違いは私も疑問だった。

守口さんは用紙にある④理由(根拠)、⑤はね返す考え(反証)、⑥バランスの取れた考えの項目を指でグルグルとなぞった。

「⑦の『気分』は『理由(根拠)』『はね返す考え(反証)』『バランスのとれた考え』を検討した後に改めて②で選んだ気分の数値がどう変化したか書くんです。点数が下がっていたり、気分が楽になっていたら認知再構成法が上手くいったということになります」

 点数をつけると、数値を比較することができてより客観的になった。


⑦気分(点数)

・怒り(80点)  ・不満(70点)  ・イライラ (70点)  ・絶望感(70点)


「まだかなり高得点だね」

「少し下がっていますね。初めての【認知再構成法】はいかがでしたか?」

 みのりちゃんらしい点数の変化だった。みのりちゃんは他のスタッフのことを考えて行動を起こしたのだ。昔から正義感の強い人だった。周囲を思ってしたことを簡単に否定することは難しい。

「でも気持ちは少し落ち着きました。明日、上司と話してみようかなって思ってます」

「それは良かったです」

 守口さんはみのりちゃんに笑いかけた。

「また、グチを聞いてください」

「もちろんです。いつもでもグチ聞き屋をご利用ください」

 守口さんがおどけた様子で頭を下げたので、みのりちゃんはクスクスと笑い出した。守口さんが従姉妹会に来てくれて良かった。

 みのりちゃんは夕飯の支度があるからと先に帰っていったので、私は守口さんとふたりだけになった。

「みのりちゃん、またオペレーター業務に戻れるといいですよね」

 私の言葉に守口さんは少し言いにくそうに返してきた。

「上手くいくのは難しいかもしれませんよ」

「だって、考え方を変えて上司と相談してみるって言ってたじゃないですか」

 思わぬ返答に私は少しむきになった。

「関根さんの気持ちを落ち着かせて事態が良くなるように考えを変えました。しかし、上司さんの気持ちを変えたわけではありませんからね。元々お仕事に対する考え方が違うようですし」

「認知再構成法を行った意味ってあったんですか?」

 守口さん言葉がはっきりしないので、霧がかったようにもやもやする。

「ありますよ。もし、関根さんが上司さんと上手くいかなくても、認知再構成法を行ったときのように、視点を変えて最善の方法は何だろうと考えると思います。これが大事なんです」

 困難に遭遇したとき、視点を変えてより良い方法を考える。その習慣が身についていれば、日常生活を送るうえで助けになるのだと守口さんは言った。

「……私もこの7つのコラムのシートは取り組んだ方がいいんですよね?」

 今回みのりちゃんが【認知再構成法】に取り組んでいるのを目の当たりにして、人が客観視していく過程を外側から知ることができた。

「もちろん。行ってみてください。自宅で取り組めそうですか?」

「がんばってみます。でも、『はね返す考え』と『バランスの取れた考え』は難しそうです」

守口さんの問いに私は正直な気持ちを伝えた。

「実はコツがあるんです」

 守口さんはいたずらっぽく笑うと一枚の用紙をテーブルに置いた。

「これに沿って、自分に問いかけながら考えていくと便利ですよ」

 私は用紙を手に取った。


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REVIEWS

評価

12334

良いと思うところ

私の知らないことを教えてくれるところ

良くないと思うところ

内容が説明的で、読みたくない、エンタメになっていない、もっと楽しく伝えるべき…
楽しくないと、人は読まない。

佳歩のことは親身になれるけど、いとこのみのりちゃんに対しては、そこまでの感情が湧かない。みのりちゃんについては、もっとサラッと流した方が読み易い。

かおり
1人がこのコメントに「いいね!」しました
みかん
コメントの評価

 著者からの返事

かおり様

コメントありがとうございます。
読者様のみのりに対する感情移入についてとても参考になります。
連載を進めていくなかで改善していけるよう精進してまいります。

これからもよろしくお願いいたします。

2018年9月17日 13時44分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
評価

12334

良いと思うところ

言っていることがすごく具体的で
分かりやすいのと守口さんが
優しい語り口なので落ち着いて
冷静になれるところが良いと思います。

良くないと思うところ

読んでいてとても勉強になるのですが、
なかなかやってみようと思えないです。
もうすこし実践しようと思わせてくれる
何かがあってほしいなと思います。

ぐち
1人がこのコメントに「いいね!」しました
みかん
コメントの評価

 著者からの返事

ぐち様

コメントありがとうございます。
ご意見とても参考になります。
実践しようと思える形にできるように頑張ります!

これからもよろしくお願いいたします。

2018年9月17日 13時47分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
評価

11234

良いと思うところ

書き出して整理するのが効果的なのはわかっていたが、更に細かく専門的に分析できる項目になっているのかな?というところ。

良くないと思うところ

具体的に書いてあるのかもしれないが、内容がまったく入ってこない。
アセスメントシートが出てきてから面白くない。
続きが楽しみだったが、今回は物語に入り込めなかったのもあり、続きへの期待も激減している。

みかん
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コメントの評価

 著者からの返事

みかん様

コメントありがとうございます。
貴重なご意見とても参考になります。
内容がしっかり入って面白い作品になるように精進して参ります。

これからもよろしくお願いいたします。

2018年9月17日 13時59分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
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