心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第7話


 子どものころ、童話を読んでいるとき自分も呪いにかかったような記憶が強く残っているせいかもしれない。

「僕は呪いって実在すると思うのです。呪いともいえるような言葉で苦しめられている人たちがたくさんいますからね」

「そんなことってあるんですか?」

 人の言葉に魔法のような力があるとは思えず聞き返した。

「たとえばどこかの誰かに『あなたは本当に何もできないね』と言われたとして、まったく気にせずすごしていけますか?」

 そんなの無理だ……。何気なく口をついたものであっても、悪意の含まれたものであっても、自分を否定した言葉はずっと心にとどまってしまう。気にしないようすればするほど、図々しく居座りつづけていく。

「しばらくは毎日思い出してしまいます。時間が経って忘れたつもりでいても、何かの拍子にその言葉が頭に浮かぶような気がします」

 もし、私の心が鋼のように強かったら別の考えが生まれたかもしれないが、あいにく持ち合わせてはいない。

「みなさん同じ思いを抱きます。まさにこれが呪いにかけられているということなのですよ」

 他の多くの人が私と同意見ということに安心する。私だけじゃないのだということが気持ちを強くしてくれるのだ。

「ほとんどの人はあなたのことを何でもできる人と思っているかもしれないのに、誰かひとりの発した言葉や考えがすべてになってしまう。この呪いに一度かかると、周囲からいくら励まされてもまったくその声は届きません」

「現実には、呪いを解いてくれる王子様も現れないですしね」

 みんな呪いにかかったまま、日々をすごしている。逆に呪いを周りの人にかけてしまうこともあるかもしれないけれど。

「自分で解いてしまえばいいのですよ。王子様は自分自身です」

 みんな簡単にできないから苦しんでいるのではないだろうか。

「でもやっぱり誰かに助けてもらいたいですよ」

「自分の気持ちを自ら対処できるようになるのが悩みを解決する近道なのですよ」

「……たしかに。そうですね」

 自分のなかにある甘えを守口さんにたしなめられて、私は渋々返事をした。

「では、呪いを解く練習を始めましょうか」

 にっこり笑った守口さんは、【問題解決リスト】という用紙を差し出した。

「この間、従姉妹の関根さんに行った『認知再構成法』は認知に対するアプローチでした。今回は『問題解決技法』という行動に対するアプローチをお教えしましょう」


    *      *      *      *      *


守口さんの家から帰ってきた私は、問題解決リストとにらめっこしていた。現在の悩みを良い方向に持っていくために、明確な目標と行動計画を立案して実行することが問題解決技法だと守口さんは説明してくれた。

 どんな計画を立てようか、様々な悩みが浮かんでペンを持つ手は止まったままだった。集中しようとテレビや音楽を消していたので、時計の秒針が大きな音を立てている。その音はまるで、私を急かすように部屋中に響いていた。

 思考を整理しようと、傍に置いてあったカタツムリ日記に手を伸ばす。ページをめくりながら、仕事に追われて書けないと思っていた自分がよくもこんなにたくさん書けたもんだ、と感慨深い気持ちになった。

 しばらくカタツムリ日記を読んでいると次第に考えがまとまっていった。私はペンを持ち、再び問題解決リストに向かった。項目を次々と埋めていく。

 守口さんから目標を立てるときに参考にするようにと渡された用紙を手に取ると、書き終えた問題解決リストと見比べた。大丈夫そうだ。具体的で達成できそうな計画が書いてある。

 今の私に必要な目標はこれしかない。



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REVIEWS

評価

12344

良いと思うところ

おお~、新機軸ですね!面白くなってる…と思います。

店長の不機嫌にも理由があったと…それが次回語られる…最後の切り方も、興味をもたせて上手いですね!

今まで「敵役」だった店長が味方に回り、本社の人間が新たな敵役として登場しました…

「ホームコメディ」ぽい話の方が、私は読み易いですから店長もファミリーの一員のような感じの方がいいですね…(今まではバイトの子たちとみのりちゃんと守口さんと…あまり「ファミリー」とは言えなかった…)

良くないと思うところ

ちょっとだけ長くて、気だるい…(必ず書かなければいけない感じなので、無理やり書いているだけですが…)

かおり
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評価

12344

良いと思うところ

面白かったです^ ^
余韻みたいなものが残る、店長の本心、本性が気になる終わり方…(^^)

どんな人でも表と裏は必ずあるけれど、(仕事の、自分の)体裁や立場を考えるだけでなくて、素直に行動したい、変われるものならたいのかわりたいと思うはずだから、、、(店長の)このタイミング、良かったです。

佳歩ちゃんが考えてる時とかの間は、いつもらしくて、いじらしいくて愛おしい(o^^o)

佳歩ちゃんと取り巻く人も皆、認知療法が支えとなり自分に葛藤しながら成長していく、この先が楽しみです。

良くないと思うところ

男女ともに同じくらい共感するような話になればさらにいいかなぁと思ってます。(女性目線側のウエイトが高い感じに思えるので)

Shiho☆
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