心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第7話


 翌日、店長が朝から本社に行っていたので、職場は私とアルバイトのスタッフだけだった。平日なので混雑はなく、どことなく従業員たちも穏やかだった。もちろん、私の心も軽い。

 何事もなく時間がすぎていく。お客さんが少ないのは困るけど、このくらい落ち着いた気持ちで仕事ができたら最高なのに。そんなことを考えていると、休憩に入る時間になったので事務所に向かった。

 ドアを開けると、先に休んでいたアルバイトの大山さんがリスのように菓子パンをかじっていた。

「お疲れ様です」

 大山さんに声をかけられ挨拶を返すと、部屋の隅にある冷蔵庫からコンビニで買った蕎麦を取り出した。私は大山さんの向かいに座ると箸を割った。

「そのお蕎麦、隣のコンビニで買ったんですか?」

「うん。出勤前に」

「今朝、私も寄ったんですけど、レジの男の人かっこよくなかったですか?」

「気づいてなかった。損した気分。明日確認してみる」

 普段、会話の少ない私たちがたわいもない話をしている。この状況が嬉しくて自然と笑顔がこぼれた。大山さんも笑っている。

 いつもこんな感じだったらいいのにな……。こんな雰囲気で仕事ができたらもっとがんばるのに。

 大山さんと雑談を続けていると、ドアの開く音がした。振り返ると本社から戻ってきた店長の姿があった。室内の温度が急に下がった気がする。私たちが「お疲れ様です」と挨拶をすると、店長は無言のまま、苦々しい表情で自分の席に向かった。大きくに響く足音からも機嫌が悪いということが伝わってきた。

 本社で何か言われたのだろうということは容易に想像できる。だからといってこの場の空気を悪くしないでほしいというのが本音だが、そんなことはもちろん言えるはずがない。

 私は無言で蕎麦をすすり、大山さんは慌てて残りのパンを食べた。

「売り場に戻ります」

 大山さんは太ももにこぼれたパン屑を払いながら立ちあがると、休憩を早めに切りあげて事務所を出ていった。

 話し声のなくなった事務所は静かになった。私は力なく蕎麦をすする。その音がさっきまでの楽しい会話をかき消していくようだ。

「若月さんはいつまで休憩してるわけ?」

 早く出ていけと言わんばかりの店長の不機嫌な声に、「まだ入ったばかりです」という言葉を飲み込んで、急いで食べ終えた。

 足早にドアへと向かうと、「失礼しました」と頭を下げて売り場へ戻った。


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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

おお~、新機軸ですね!面白くなってる…と思います。

店長の不機嫌にも理由があったと…それが次回語られる…最後の切り方も、興味をもたせて上手いですね!

今まで「敵役」だった店長が味方に回り、本社の人間が新たな敵役として登場しました…

「ホームコメディ」ぽい話の方が、私は読み易いですから店長もファミリーの一員のような感じの方がいいですね…(今まではバイトの子たちとみのりちゃんと守口さんと…あまり「ファミリー」とは言えなかった…)

良くないと思うところ

ちょっとだけ長くて、気だるい…(必ず書かなければいけない感じなので、無理やり書いているだけですが…)

かおり
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コメントの評価

評価

12344

良いと思うところ

面白かったです^ ^
余韻みたいなものが残る、店長の本心、本性が気になる終わり方…(^^)

どんな人でも表と裏は必ずあるけれど、(仕事の、自分の)体裁や立場を考えるだけでなくて、素直に行動したい、変われるものならたいのかわりたいと思うはずだから、、、(店長の)このタイミング、良かったです。

佳歩ちゃんが考えてる時とかの間は、いつもらしくて、いじらしいくて愛おしい(o^^o)

佳歩ちゃんと取り巻く人も皆、認知療法が支えとなり自分に葛藤しながら成長していく、この先が楽しみです。

良くないと思うところ

男女ともに同じくらい共感するような話になればさらにいいかなぁと思ってます。(女性目線側のウエイトが高い感じに思えるので)

Shiho☆
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