心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第9話

 認知行動療法を実践して良かった。私だけでなく周りの人も変わった気がする。守口さんは「自分の気持ちを変えることはできても、状況を変えることは難しい」と言っていたけど、こんなに現状を変化させられたのだ。うまく実行すれば、自分だけでなく周囲にもよい効果をもたらすのかもしれない。

 今まで、さまざまな人間関係に悩み苦しんできたが、もう大丈夫だろう。つきあうのが難しい店長とうまく関係を築けそうなのだ。自分に対して、自信を持てない私がこれだけ手ごたえを感じていることはめずらしいことだった。

 どうかこのまま平穏な毎日をすごすことができますように……。無意識に手をあわせて祈っていた。これからはどうか明るい未来だけをお願いします。

 事務所のドアの開く音がして、慌ててあわせていた手を膝に置いた。祈る仕草を見られていなかったか心配になって出入口へ目を向けると、大山さんと村上くんの姿があった。

「ちょっと相談したいことがあるんですけど、いいですか?」

 大山さんが私に声をかける。

「じゃあ、そこで」

 私は壁際の自分の席から室内の中心にある休憩スペースに移動した。傍の椅子をふたりに勧める。

「失礼します」

 村上くんがいつもとは違うかしこまった口調で言った。ふたりは私の向かいの椅子に腰かける。大山さんも村上くんも見たこともない真剣な表情をしていた。

 ふたりともなかなか話をはじめない。無言の空気が重かった。私が何かしたのだろうか。ここ最近の大山さんや村上くんとのやり取りを振り返ってみたが、思い当たる出来事は何もなかった。

「……何かあった?」

 いくら待ってもふたりが話しはじめる様子がなかったので私から声をかけてみた。大山さんと村上くんが目配せをしている。ふたりの間で行われるアイコンタクトがますます私を不安にさせた。

「私たち、店長の感情的な発言に振りまわされるのもう嫌なんですよね」

 大山さんが口火を切った。いつもの癖で、自分のことを何か言われるだろうと思っていたので予想外の内容に不意をつかれた。

 ふたりの気持ちは痛いほどよくわかる。私だって今まで同じ思いを抱えていたのだ。店長のこれまでのいきさつを知らなければ、すぐに同調していただろう。しかし、今は違う。店長をフォローして、ふたりの気持ちもくみ取っていかないといけない。

「気分の波が激しい人だよね。たしかに少し疲れると思う」

「ちょっとどころじゃないですよ。若月さん心広すぎじゃないですか」

 村上くんが私の言葉に突っかかる。

「視察のとき、みんなに八つ当たりして。若月さんも大変だったじゃないですか」

 大山さんは村上くんを援護するように強い口調で言った。

「そうだけど、あの視察は店長もきつかったと思うのよね。誰だって気持ちが浮き沈みするときはあるんじゃないかな」

 ふたりを刺激しないように丁寧に声をかけたつもりだった。村上くんは納得のいかない顔をしている。大山さんは大きなため息をついた。

「店長の状態が変わらないなら、私たちお店辞めたいんですけど」

 とうとう言われてしまった……。私は返す言葉がみつからない。



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評価

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良いと思うところ

新しく展開されたのはいいと思いました。

良くないと思うところ

ヒロインは、なぜこんなにも会社が良くなるようがんばっているのだろう?…と考え、ひょっとして、出資者の一人なのかもしれない…と今は疑っています(笑)

かおり
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