心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第9話

「少し落ち着かれました?」

 ひととおり話し終えたころ、守口さんは私に尋ねた。「はい、スッキリしました」と言おうとして、口を閉じた。全然違う。何か胸につかえているような感覚があった。グチを言いながら、認知行動療法を実践したのに、と不満が大きくなってしまったのかもしれない。

「ひとつ、試してみましょうか」

 私が黙っていると、守口さんが何か察したように言った。

「何をですか?」

「まあ、リラックスする方法です」

 守口さんはにっこり笑うと、テーブルに置いてあった白紙に円をふたつ描いた。

「先ほど若月さんが話していた職場での話し合いについてですが、うまくいかなかった原因は何だと思われますか?」

――話をまとめることしか考えてなかったんじゃないですか? 店長と俺らのご機嫌取ってどっちつかずじゃないですか。

 頭のなかで問題の元をたどっていると、村上くんに言われた言葉が耳元で響いた。私が全員の気持ちを察して話し合いに参加していれば、このような結果にはならなかったのではないだろうか。そもそも話し合いを提案したのがいけなかったのかもしれない。

 自分がいけないんだという思いで頭がいっぱいになり、口を開くのも重く感じる。

「……私の判断がいけなかったんです。話し合いをするならもっとみんなの感情を把握しておけばよかったんです」

 私はうなだれながら自分でだした結論を伝えた。守口さんはひとつの円の中心に「自分100%」と書いた。

「若月さんの言ったことをそのまま円グラフで表してみました」

「どういうことですか?」

 意味が理解できず守口さんに質問した。

「人は何か出来事が起きたときに、その結果に関係なく原因は何だろうかと考えつきとめようとします。この心理を『原因帰属』といいます」

 守口さんは説明をしながら、「自分100%」と書かれている部分をトントンと指でさした。

「若月さんのように何でも自分に原因があると思われる人はシンプルな円グラフになりますね」

「でも、事実ですから」

 私の返答に守口さんがクスリと笑った。

「何がおかしいんですか?」

 私の気分が沈んでいるせいだろうか。なんだか今日は守口さんの表情や行動に苛立ちを感じてしまう。

「失礼しました。僕は若月さんだけのせいではないと思いましてね。普段生活しているなかで起こる出来事に原因がひとつだけということはないんですよ。この世は複雑なのです。さまざまな原因が絡みあってひとつの出来事が作られているのですよ。ひとつずつ原因を探してみましょう」

 大山さんと村上くんから辞めたいと言われてからのことを振り返った。そのなかで原因となるものを考えていく。店長の気分の浮き沈み、話し合いの場で感情的になってしまった大山さん、店長にひどい仕打ちをした平塚さんも原因に入れてしまおう。そしてみんなの気持ちを理解できていなかった私。



好きを送るためにログインしよう!

REVIEWS

評価

12334

良いと思うところ

新しく展開されたのはいいと思いました。

良くないと思うところ

ヒロインは、なぜこんなにも会社が良くなるようがんばっているのだろう?…と考え、ひょっとして、出資者の一人なのかもしれない…と今は疑っています(笑)

かおり
まだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価

ページトップに戻る