心理学グチからはじめる認知行動療法

グチからはじめる認知行動療法 第10話

 インターホンのチャイムの心地よい音が響いた。まさか鳴るとは思わなかったので体がビクッと震えてしまった。

 扉を叩く勇気がでなくてしばらく家の前をウロウロした後、壊れているんだよなと思いながら何気なくインターホンのチャイムを押したのだった。

 いつ修理したのだろう。もしかしたら私が気づかなかっただけで、だいぶ前から直っていたのかもしれない。

「どちら様ですか?」

 インターホンから守口さんの声が聞こえてきた。

「あの、若月です」

 慌てて名乗ったので声が上ずってしまった。

 しばらく待っていると扉が開き守口さんがいつもの笑顔で迎え入れてくれた。

 部屋に案内されていつもの席に着く。守口さんの家を訪ねたのは一か月前に八つ当たりしたとき以来だ。今日は謝罪をするつもりでここへきた。

 室内にひとりで待つのは何かの審判を待っているようだ。謝ったら守口さんは許してくれるだろうか。守口さんの笑顔が消えて怒りだすかもしれない。ひどい言葉でなじられるかもしれない。

 グルグルと様々な予想が頭のなかを巡っていく。次第に心拍数も上がり、緊張しているのだと気づく。うまく話せるだろうか。不安も強くなってきた。

 グルグルと考えることをとめようとして頭を横に振った。

――合言葉はグルグルです。

 守口さんの言葉が浮かんだ。私は息を9秒吐いて、6秒吸ってと深呼吸を繰り返した。96969696(グルグルグルグル)(グルグルグルグル)と心のなかで何度も唱えながら、謝罪する相手に気持ちをほぐしてもらうなんてとおかしくなった。

 守口さんがコーヒーを盆に乗せて戻ってきた。

「お待たせいたしました」

 守口さんはいつものようにカップとミルクポットをテーブルに並べると、私の向かいに座った。

「あの……」

 今しかない、と私は立ちあがり口を開いた。守口さんが首を傾ける。

「この間はひどいことを言ってしまって申し訳ありませんでした」

 深く頭を下げる。守口さんがどんな表情をしてるのかが怖くて、なかなか顔をあげることができない。

「若月さん」

 声をかけられ恐る恐る守口さんを見るといつもの笑顔だった。安堵すると、守口さんは悲しそうな表情になった。

「あの時は本当に傷つきました」

 うなだれる守口さんに私は動揺する。

「本当にごめんなさい」

 再び頭を下げる。過去に戻って八つ当たりしたときの自分を殴りたい、と目をつむった。

 クスクスと守口さんの笑い声が聞こえて目を開ける。

「顔をあげてください」

 私は姿勢を正した。

「大丈夫ですよ。ご存知のとおり僕は気持ちのコントロールが得意なんです」

 座るようにうながされて、私は椅子に腰かけた。

 守口さんはいつもの笑顔でカップをよせてコーヒーをかき混ぜる。私も同じようにコーヒーをスプーンで回しながらミルクを流し込んだ。グルグルとカップのなかで回る渦を眺めてから、コーヒーをひと口飲む。胸の辺りがじんわりと温かくなった。




「グチからはじめる認知行動療法」は今回でいったん大団円です。

単行本化のため、全編通してのご感想や、励ましのお便りなどお待ちしております


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REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

守口さんに対する態度も副作用だったのだなぁと。
佳歩ちゃんのこれから、未知数だけれど周りから信頼される、頼りにされる人になるのだろうな、それで佳歩ちゃんはまた悩む、、、の繰り返しなんだろうなぁと、でも守口さんの教えで今より楽天的に進められると確信が持てました(^-^)

佳歩ちゃんの 〝七転び八起き〝的な感情の日々に勇気づけられました。

一呼吸おいて、まずは自分が冷静になることの大切さ、認知療法、自分にとってじわじわとした原動力になっていくと思います ^ ^

どうもありがとうございました。単行本楽しみにしています ‼︎(*^▽^*)

良くないと思うところ

みのりちゃんの選択肢、、、みのりちゃんの立ち位置ならばそうなのでしょうね。

Shiho☆
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コメントの評価

 著者からの返事

Shiho☆様

コメント嬉しいです!
Shiho☆様のコメントにいつも励まされていました。

最後まで読んでいただきありがとうございました!
単行本になるように頑張ります。

2018年11月15日 17時6分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
評価

11234

良いと思うところ

とにかく書いてる、書けてるところ。

良くないと思うところ

「季語」のようなものが入っていればいいなと思いました。(また従姉妹会か…)とため息が出ますが、そこに行くまで涼しい風が吹いていたり、窓から紅葉が見えたりしたら、以前の従姉妹会との時間の隔たりが感じられるでしょう。

登場人物に好きな人がいません。

ヒロインが店寄りの人間で、共感できません。

まずは従業員の味方をして、店長を辞めさせようとして対決して、そこから店長なりの理由も知り、店長にやる気を出させていくとか、そういう展開ならまだわかりますが…

店長なりの理由はあるのですが、店長のやっていることはただのわがままであり、何の関係もない従業員に、嫌な思いをさせていいとは思いません。

今回ラストということですが、途中で読むのをやめてしまいました。

例えば、「従姉妹会」ならそれをイメージしながら読みたいので、もうちょと、どんな場所でやってるのかとか、天気はどうなのかとかを、書いてほしいです。

かおり
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コメントの評価

 著者からの返事

かおり様

いつも貴重なご意見をくださり本当に有り難いです。
これからも精進いたします。
コメントありがとうございます!

2018年11月15日 17時10分 花田 麻衣子
花田 麻衣子
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