――小学校を卒業してからの5年間、本当に苦しかった。
今まで簡単にできていたことができなくなって、他の人にどんどん追い抜かれていく。そんな自分を受け入れることができなくて、でも、誇れるものが何もなかった私が選んだのは、自分を笑いものにして周囲の気を引くことだった。男子が見たら100%引くような体を張った下ネタに挑戦したこともある。そんな私のことを「プライドがない」と思っているクラスメイトもいるみたいだけど、それは違う。断じて違う。
私は、とてつもなく高いプライドをなんとか保とうとして、何もない自分の中から無理やり価値を引っ張り出してきたのだ。
でも、そんな苦しい日々も今日で終わりだ。
私は、今日という日に出会うために、今までずっと苦汁を舐めてきたのだ。
私は、老女の手を握った。片手ではなく、両手で。そして胸に引き寄せ目を潤ませながら、上目遣いで言った。
「よろしくお願いします、プロデューサー!」
「プロデューサー?」
首をかしげる老女に向かって私は勢いよく言った。
「そうです。これから私をプロデュースしてくれるんですよね。つまりあなたはプロデューサーです。山咲Pです! 山P(ヤマピー)です!」
「まあ呼び方はなんでもええけども。とりあえず手を放してもらえるかの?」
気づいたら指がめりこむくらい山Pの手を掴んでしまっていた。
「す、すみません! 山P!」
私は慌てて頭を下げた。山Pは跡がついた手を振りながら言った。
「盛り上がるのは結構じゃが、その気持ちをすぐに冷めさせてしまわんようにな。大事なのは続けることじゃから」
「はい! 山P!」
「まあ、そのあたりも含めて指導して……」
「はい! 山P!」
「お前、ワシの言葉は最後まで……」
「はい! 山P!」
敬礼をしたまま直立する私を見て山Pはやれやれといった感じで首を振った。
それから壁の時計を見て言った。
「おや、もうこんな時間か。では、『ハニーズ』のアルバイトの初日には、一つ課題をやってもらおうかの」
「はい。何でも言ってください!」
私はすぐに机に向かい、引き出しからノートを取り出した。途中まで自分のサインを練習していたノートだった。
そのノートを開き、山Pから言われた課題をそのまま書きこもうとしたが、あまりにも拍子抜けするものだったので顔を上げて言った。
「こんなことで良いんですか?」
すると山Pはニヤリと笑って言った。
「まあ、やってみるとええわ」
私は訝(いぶか)しく思いながらも、とりあえず山Pが言った言葉をそのままノートに書き込んだ。
【アルバイト中は、時計を見ない】
「真理 —成功と幸福の秘密を知ったアイドル」は隔週月曜日更新です。
次回の更新は1月1日(月)です。
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評価
良いと思うところ
16歳の話はおもしろくて、ぜひ多くの方に読んでもらいたいと思います。
良くないと思うところ
「66歳のヒロインが16歳の自分に会いに行く」という冒頭が、イメージしにくく、ここで読むのをやめてしまう人がいるのではないかと危惧しています。
2017年12月22日 2時39分 カヲリ「16歳の話」から始めて、おばあさんが登場してから冒頭の部分にもっていった方が、良くないでしょうか?
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著者からの返事
感想ありがとうございます。
2017年12月23日 5時32分 水野敬也冒頭の状況、もっと分かりやすくする可能性を考えてみます。また、冒頭が前編の最後で大きく影響してくるのでそこを見てもらってからご意見さらにいただけたらうれしいです!引き続きよろしくお願いします。
評価
良いと思うところ
水野さんのテンポがよく出ていて、水野さんの昔からのファンはどんどん引き込まれていくと思います。
良くないと思うところ
水野敬也初心者の人が読むと、「タイムとラベルで昔の自分を指導する」設定がわりと普通で、そのわりには少しわかりにくいので、物語に入り込む前に終わってしまいそうな気がします。
2017年12月25日 13時51分 有村信一郎1人がこのコメントに「いいね!」しました
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著者からの返事
なるほど、やはり冒頭には工夫が必要だということですね。
2017年12月26日 23時52分 水野敬也ありがとうございます!
評価
良いと思うところ
話のテンポも内容の水野さんらしさも最高です
冒頭の人工知能の相沢で「神様に一番近い動物」に出てきた相沢を思い出してクスッとしてしまいました
これからどう話が広がるか楽しみです
良くないと思うところ
(明確に「悪いと思う点」という欄がレビューに設けられているサイトのシステムに驚いてますが…)あえて書くなら人生に悔いを残した66歳のおばあちゃんの言葉、助言に説得力があるのか現時点でまだ分からないのでこれからどうなるのか気になります
2017年12月25日 16時56分 チョコまだこのコメントに「いいね!」がついていません
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著者からの返事
助言の説得力については2章で出てきます。そこで新しい手法を取っていますが説得力が出ているか検証いただけたらうれしいです!
2017年12月26日 23時53分 水野敬也評価
良いと思うところ
ターミネーターのように全裸で登場する老婆やアイドルの格好で納得する老婆に突っ込みを入れる女子高生等のイメージしやすい笑い、ギャグの要素は読んでいて面白かったです。
良くないと思うところ
主人公が女子高生なのか、老婆なのかがわかりません。両方ともにあまり差のない量の説明や感情の描写をしてしまうと少しくどいと思います。全体的に説明が多い気も。そのせいで面白いところはテンポがいいのに、説明のところで急に足元がもたつくように感じます。そこはもっとさらっとでいいんじゃないか…と思うところがありました。あとは読み手(ターゲット)をどこに設定しているのだろう?とも思いました。これから人生を切り開いていく若い方なのか、自分の人生を振り返って、もし過去に戻れるのなら…と一度は考えたことがある大人なのか。水野さんのスパルタ婚活術を大変面白く読ませて頂きましたが、あの本はターゲットが「アラサー婚活女子」とピンポイントに明確でしたので、書かれていることも単純明快、的を射ていると思いましたが、この物語は誰に向けたものなのかが不明で、それゆえに物語に説得力を感じず、心を掴まれる程ではなかったです。
2017年12月26日 10時0分 山重彩老婆の方がキャラクターが定まっていないようにも感じました。第一話後半の語りの部分とか。話を展開するために作者の言葉を喋らされてる感があります。本当の彼女ならこんなこと喋らなそうだなと思いました。
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著者からの返事
丁寧な感想ありがとうございます。
2017年12月26日 23時55分 水野敬也老女のキャラは確かにそうですね。もう少しミステリアスな雰囲気を持たせてもいいかもしれません。設定としては老女はタブレットに書かれてある内容に従って16歳の真理を育てているのでそのあたりをふくらませることで老女の人間らしさがでるかもしれないですね。ただ同時に、実用を入れる上で老女は「権威」でもある必要があるので自信を持っててほしいというのもあって、、、。章が進んでから振り返ってみます。
評価
良いと思うところ
相変わらず面白いのと!それ以上に、現実を変えてくれる言葉がメインで進んでいくような。普通の小説じゃなくて。実用書だなぁと。先生らしくていいと思います◎
また、場面で各々にハッキリした色があるので(他の方が書いた作品に比べて、ちょっと読むモノにしては長いけど〜)単調にならず、最後まで一気に読めます。特に、16歳の真理ちゃんのキャラが事細かく描かれてるのは、さすがでした(笑)
良くないと思うところ
冒頭の真理が、人生が終わるような66歳のおばあちゃんだということが、何度読んでもイメージしづらく。どうしても、物足りなさを感じながら読み進めます。16歳の真理ちゃんはあんなに伝わってくるから〜ギャップがありすぎて(笑)最初から、真理ちゃんは真理ちゃんで居てほしいというか。んーなんというか。
2017年12月26日 15時7分 takaminまだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価
著者からの返事
なるほど。それはその通りですね。16歳の真理の延長線上で66歳の真理がいるのだから、真理っぽさ、もっと言うと、真理が取りそうな笑いの行動は冒頭に含ませるべきだと思いました。ありがとうございます!!!
2017年12月26日 23時57分 水野敬也