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ついに、長年の憧れだったハニーズの制服に袖を通す日がやってきた。
興奮で震える手をゆっくりと白いシャツの袖に手を通していく。エプロンをかけ、鏡の前に立ってみた。
(か、か、可愛いぃぃぃぃぃ!)
レースのシャツと胸のリボン。ピンク色のエプロンの縁についたフリルのあまりの可愛さに、
(なんなら、このままステージに立てるんじゃ……)
と、鏡の前であかりんの曲の振りつけを踊ってしまった。
「山咲さーん」
更衣室のドアがノックされたので、直立不動の姿勢になりドアを開いた。
ドアの前にいた金子店長は私の全身を見て、
「服のサイズは大丈夫そうだね。うん、似合ってる」
と言ってにっこり笑った。細身のスポーツマン体型の金子店長は、顔が小さく目鼻立ちもはっきりしていて、かなりカッコイイ男の人だ。肌は日焼けしているので笑ったときに白い歯が浮き立つように見える。ただ、私は面接のときほどは緊張していない。それはたぶんハニーズの制服を着ているからだ。素敵な服が私に自信を与えてくれている。
「今日は初日だから、お客さんの案内と食器のバッシングだけでいいからね」
「バッシング? バッシングって、何かを、攻撃するんですか?」
すると店長は声を出して笑った。
「片付けることをバッシングって言うんだよ」
(よし、ウケた!)
自分の天然を装ったボケがさく裂したことに満足していると、金子店長は「服部さん」と女性スタッフに声をかけた。
呼ばれて近づいてきたのは30代くらいの眼鏡をかけた女性で、正直、ハニーズの可愛らしい制服とは全力でミスマッチしている女性だった。
「今日からシフトに入る山咲真理ちゃん。女子高生だよ」
金子店長から紹介されると服部さんは、
「女子高生、うらやましいわぁ」
本音なのか皮肉なのかよく分からない笑みを浮かべた。
そして、服部さんは言った。
「そんなに難しい仕事じゃないからね。私のやり方見てれば大丈夫よ」
――その言葉を聞いたとき、ぞわぞわと鳥肌が立つのを感じた。
服部さんが口にしたのは、山Pの予言したものとまったく同じ言葉だったからだ。
(やっぱり山Pは未来から来たんだわ!)
興奮した私は、
「よろしくお願いします!」
と言いながら服部さんの手を両手で握った。
そのとき私が思ったのは、
(この、人生がバラ色に染まっていく感じを今のうちに歌詞にしておいた方がいいんじゃないか)
ということだった。
そして、ホールに一歩足を踏み出した瞬間、自分の考えは間違っていなかったことが分かった。
そこはまさにステージだった。これまで、お客さんとして来ていたときとは違う景色が広がっている。
(今日から私はこのステージで、多くの人たちを魅了する仕事をするんだわ)
感動のあまり震えていると、入り口の扉が開き、一人の男性客が入ってきた。
私は誰よりも早く声を張り上げた。できるだけ、可愛らしい声で。
「いらっしゃいませ!」
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評価
良いと思うところ
めちゃくちゃ面白いです。自分なら、どの年齢の自分に何をアドバイスしたいかなど、想像しながら読んでいます。何歳になっても「成功と幸福」には興味があるので、楽しみながら、タメになりそうです。続きが待ち遠しいです。
良くないと思うところ
第一話の時から感じていたのですが、私は老女と年齢が近いので、老女の年齢が66歳という事に違和感を感じます。60代ならそんなに腰も痛くないし、テクノロジーにもそこそこついていっている若々しい人も多いと思います。老人語が似合うのも、70代~80代ぐらいの人だと思うので、老女の年齢設定をもう少し上げてもらえると、中高年が読んでも受け入れやすいのではないかと思います。
2018年1月3日 16時20分 Kumiko.まだこのコメントに「いいね!」がついていません
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著者からの返事
コメントありがとうございます!
2018年1月4日 13時58分 水野敬也老女の年齢は、物語のラストにも関係してくるので今のところは66歳でいかせてもらえたらと思います、、、!
評価
良いと思うところ
時給の罠という言葉にドキッとしてしまいました。仕事は生活のためと割り切り毎日足を引きずりながら会社に通っているために一語一句にみがつまされ、同時に仕事の本質について教えもらったことはないことにも気がつきました。続きは公開されていますが週末に読みます。楽しみです。
良くないと思うところ
おばあちゃんのはずですが、なぜかお爺さんのような言葉のように受け取ってしまいます。雨の日も、晴れ男のようにイラストがついてるとイメージしやすいかもしれません。
2018年1月17日 14時44分 Mieko1人がこのコメントに「いいね!」しました
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