「今頃気づいたの? 入って来た時からそうだよ」
翌日、シフトが重なった島倉さんに京子が、それとなく大樹のことを聞くと、そう答えが返って来た。
「あの女子大生が入ってくると、見とれて、ボーっとなるの」
楽しそうに島倉さんが言う。
「知り合いか何かじゃないんですか?」
京子が言うと、島倉は「何もわかってないなぁ」という感じで首を振った。
「この間、ちょっとカマをかけてみたんだけどね、顔を真っ赤にして慌ててたよ。見とれてなんていません! ってごまかしてたけど、あれは惚れてるね」
「もしかして、つきあってるとか?」
京子は恐る恐る聞く。
「いや、まだ話したこともないみたい。これは私の勘だけど、きっと川辺君 、あの女子大生目当てでここのバイトに来たのよ。でも、なかなか声をかけられずにいるわけ!」
島倉の声が熱を帯びる。それから、島倉は、ふぅ、とため息を吐いて、うっとりした目でどこかを見つめながら、言った。
「いいわねぇ、若いって……」
京子は内心で、頭を抱えていた。
ちっともよくない!
何故、今まで気づかなかったのだろう。確かに、何度か大樹がボーっとしているのを見た記憶がある。けれど、それがあの女子大生とはつながらなかった。そんなことよりも気を遣わなければならないことが、いろいろあったのだ。
しかし、そうだと思って見てみれば、確かにそれはハッキリしていた 。あの女子大生が来店すると、何をしていても、大樹の目はそちらに引き寄せられてしまう。そしてしばらくボーっとして眺めているのだ。
次に京子と大樹のシフトが重なった時も、その女子大生が来た。
大樹はボーっとして、仕事の手が止まっている。
京子は心底、腹が立ってくる。
まったく不公平だった。ここまで京子は手を尽くしてきたのに、あんな、服も髪もメイクも、たいして凝っていないような女に邪魔されるなんて。
大樹も大樹である。人をデートに誘って、さんざん期待させた癖に。女子大生を見つめる大樹を見ていると、抑えきれないいらだちが京子の中に湧き上がってくる。
「きれいだよね、あの人」
京子がポツリと言う。半分、嫌味のつもりで。
ハッとして、大樹が振り返る。
「え? あ、誰がですか?」
慌てたように大樹が言う。島倉の言う通りだ。顔も若干、赤くなっているように見える。
「ほら、あの女の人。よく来るんだよね。多分、大学生だと思うんだけど」
「あ、確かに、きれいですね」
今、気づいたような調子で大樹が言う。その白々しさに、京子はますますいらだつ。こっちの気も知らないで。まったく不公平だ。そりゃあ、あれだけ美人なら、と京子は思う。
「あんなにきれいだったら、きっと格好いい彼氏がいるんだろうね」
京子はポロリと呟いた。
「え?」
大樹が、間の抜けた声を出して一瞬、呆然とした顔をする。
「……あ、そ、そうですよね。確かに。あんなにきれいなら、当然、彼氏もいますよね。あはは」
大樹の口調が、いつもより早口になっている。明らかにうろたえている。
そんなに動揺するほど、あの女子大生に気があるのだろうか。京子は拳を握りしめる。ここまで来たんだ。こんなことで負けてたまるか!
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評価
良いと思うところ
おっーいいですね*
謙遜されてたけど、読みやすくなってます◎
すごいすごい♪京子ちゃんの心の喜怒哀楽も、前よりそのまま言葉になってて。熱が出て来ましたね。
(システム上のことでしょうけど、フォントの大きさも読みすいです◎)
良くないと思うところ
読みやすくなった分、行動経済学だから。
2018年1月25日 16時20分 takamin数字が出てくるのはしょうがないんでしょうけど。急にその辺が、文章として理解するのが難しくなるなぁ(3ページ目とかのような場所)と、思ったり。無理難題(笑)一応、書いておきますね。
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コメントの評価
著者からの返事
コメントありがとうございます!
2018年1月26日 21時40分 森久人フォントの大きさは、僕の手柄ではないのですが(笑)
タメランドはシステムも、しっかりこだわって作られていますので
そういう部分を喜んでいただけると、とても嬉しく思います。
行動経済学の説明で数字が出て、読みづらくなってしまうことについては、
僕も書いていて気になり始めていて、第二話のシュークリームのように
数字以外のものに置き換えて、たとえ話的にうまく説明できるように
していければなと、考えています。
コメントを参考に、作品が良い方向に向かうよう、尽力していきますので、
今後もご愛読の程、よろしくお願いします!