４

　ハニーズのアルバイト二日目。

　夕食時の混み合っている店内で、私は走り回っていた。

　仕事内容は初日と同じで、お客さんの案内と食器のバッシングだけだったけれど、お客さんを待たせないようにいつも入り口に意識を向けたり、お客さんに気持ち良く座ってもらうために、食器をできるだけ早く片づけることを心がけたりした。それでも、厨房の岩尻さんからたびたび怒鳴られて心が折れそうになったが、桃瀬さんのサングラスで見せてもらったあかりんの姿を思い出し、自分を奮い立たせた。

　「真理ちゃん。上がって良いよ」

　服部さんに声をかけられたとき、心地よい達成感が体じゅうに広がった。

　私はこの日、仕事が終わるまで一度も時計を見なかったからだ。

　そして何よりもうれしかったのは、初日よりも仕事を楽しめたということだった。もし、この感覚を持たずに仕事を続けていかなければならないとしたら、それは本当につらいことだと思う。

　（山Ｐの言っていたことは正しかったんだな……）

　山Ｐのことを見直しながら、充実した気持ちで更衣室に向かっていたのだけれど、服部さんから「ごめん真理ちゃん、ちょっといい？」と声をかけられ、再びホールに呼び戻された。

　（何だろう……？）

　そのまま後についていくと、やってきたのはトイレだった。

「トイレチェック教えとくから。トイレットペーパーは三分の一以下になってたら取り換えてね。あと、蛇口はちゃんと光るまで磨いて……」

　服部さんは、手際良く作業をしながら説明をし、女子トイレの掃除を終えると、男子トイレに向かった。そして、入り口のところに「清掃中」の置き看板を出して言った。

　「男子トイレも同じようにお願いね。これからはバイト上がるとき必ずトイレチェックするようにしてね」

　「分かりました」

　私は返事をしてから男子トイレの中に入った。

　しかし一歩足を踏み入れた瞬間、全身に鳥肌が立つのが分かった。

　（な、なんなのこれ……）

　鼻をつくような悪臭と淀んだ空気にめまいがした。できるだけ臭いを取り込まないように口の呼吸に切り替えて恐る恐る進んで行ったが、

　（ひいぃ！）

　便器の周辺を見て卒倒しそうになった。

　便器の下の床があり得ないほど濡れていたのだ。

　一刻も早くこの場所を出ないと最悪、死もあり得る――ていうか服部さんは先輩なんだからこっちのトイレを先に掃除をして、女子トイレを私にやらせなきゃだめなんじゃないの⁉

　（適当に終わらせて早く帰ろう）

　そんなことを考えながら、掃除道具置き場の扉を開けた、そのときだった。