緊張しながら言葉を続けていったが、内心は、

（言わせてんじゃないわよ！　私にフルネーム名乗らせてんじゃないわよ！）

　全力で毒づいていた。もしかしたらこめかみあたりがぴくぴくと震えてしまっていたか

もしれない。

　少し間を置いてから、彩花は気の抜けた声で言った。

　「真理じゃん」

　（そうだよ！　あたしがＭＡＲＩだよ！　　ＭＡＲＩ　ＹＡＭＡＳＡＫＩその人だよ！）

　心の中でツッコミを入れながらも、作り笑顔で彩花の言葉を待つ。彩花は言った。

　「あんたここで何してんの？」

　（何なのよ、その興味なさそうな言い方！　そっちがそんな感じで来るんだったらこっちにも考えがあるわよ！）

　私は、できるだけそっけない感じで言葉を返した。

「バイトだけど？」

　「ここ、学校から遠くない？」

　（学校からの距離関係なくねーか⁉　ていうか、だったらなんであんたここにいるんだよ！）

　そんなことを考えながら、できるだけそっけなく返す。

「結構遠いよねー。でも私、部活してないし」

　すると彩花は私の制服の上から下までサッと視線を動かして言った。

　「ねぇ……」

　（やっとこの制服の可愛さに気づいたか）

　誇らしい気持ちで言葉の続きを待っていると、彩花は言った。

　「私がここにいたこと学校で言わないでね」

　そして彩花は目の前に座る男に人に視線を向けた。

　（な、なんじゃそら―――）

　怒りで逆立った髪の毛がカチューシャを吹き飛ばすんじゃないかと不安になるくらいの怒りを覚えたが、彩花はこれ以上会話を続ける気がなさそうなので、奥歯をぎりぎりと噛みしめながらテーブルをあとにするしかなかった。

　それからは、できるだけ彩花を視界に入れないようにして仕事を進めた。

　なかなか仕事に集中できないけれど、（どんな状況でも目の前の作業に集中するのがプロフェッショナルよ！）と自分に言い聞かせながら普段のペースを取り戻そうとした。

　しかし、彩花のテーブルから大きな笑い声が聞こえたので思わず見てしまった。そのとき海城男子と目が合ったが、その笑い方からして、何か、私をバカにしているような雰囲気だったのでますます嫌な気分になった。

　彩花たちに注文された品をトレイに載せた私は足早にテーブルに向かい、

　「アイスコーヒーとマンゴーパフェになります」

　と、たぶん、入店してから一番心のこもっていない言い方で告げ、テーブルの上に置いた。

　すると男の人が突然口を開いた。

　「真理ちゃん」

　なれなれしい呼び方に違和感を覚えたが、次の言葉で全身が凍りついた。

　「真理ちゃんがここで働いているのって、アイドルにスカウトされるためなの？」

　「ちょっと、やめなよ」

　彩花が笑いながら男を抑えるように手を振った。

　海城男子は「でもさぁ」と話を続ける。

　「橋本明香里がファミレスでスカウトされたのって都市伝説でしょ？」

　そして、海城男子は爆笑した。