仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第6話-1

 ハニーズの仕事を終え部屋に戻ると、椅子に座って待機していた山Pは興奮気味に語った。

 「見たか? あの海城男子の顔! 蒼ざめとったなぁ!」

 ――目の前の出来事に夢中でまったく気づかなかったけど、山Pは今日ハニーズで起きた出来事の一部始終を、向かい側の一番眺めの良いソファ席から見ていたらしい。

 山Pは、桃瀬さんや赤音さんの動きと口調を真似て言った。

 「特にあのくだりが最高じゃったな。桃瀬くんが、それはまりりんに対する愛なのか? と聞いたあとの赤音が気にせず殴ろうとする瞬間な」

 楽しげに語る山Pを見ていると、ふとある疑問が思い浮かんでたずねた。

 「もしかして、山Pって今日彩花がハニーズに来ること知ってたの?」

 すると山Pはしれっとした顔で言った。

 「まあな」

 山Pの返答に私は声を荒げて言った。

 「だったら先に言っといてよ!」

 すると山Pは「アホか」とため息交じりに言った。

 「そんなことをしたらお前の学ぶ機会が失われてしまうじゃろ。ただでさえ今日はお前にとって最高の学びがあったというのに」

 「最高の学び?」

 私は首をかしげた。今日の、彩花とのやりとりの中で何か学びがあったとは思えない。

 すると山Pは言った。

 「お前は、ワシがこれまで教えてきたことを覚えておるか?」

 「もちろんだよ」

 私は机の引き出しからノートを取り出してきて広げた。そこには山Pとレインボーイズの人たちから教わったことがまとめられている。

 私は文章を指差しながら説明を始めた。

 「まず、『仕事中は時計を見ない』っていう課題が出たでしょ。時間で報酬が決められると、人間は『苦しいことから逃げて楽な方に向かう』性質があるからサボろうとしてしまう。これが『時給の罠』だよね。その状態を防ぐには、仕事は楽しいものだと知る必要があって、その第一歩が『同じ業種の人の素晴らしい仕事に感動する』ことだよね」

 山Pは満足そうにうなずいて先をうながした。

 私は調子に乗って話し続けた。

 「夢をかなえるために必要なのは『エゴで夢をふくらませる』ことと『因果関係を把握する』こと。世の中で起きる現象にはすべて因果関係があるから、自分が求める結果を生むための原因を作らなければならない。でもそれはときに苦しいことにもなる。その苦しさを乗り越えるためには、エゴの力を使って夢を最大限にふくらませる。目の前の苦しい作業も夢をかなえるための原因になると信じられれば、目の前の作業を楽しむことができる。山Pが猛烈に推してた『TST』だよね」

 ――我ながらよく理解していると思った。成績が良かった小学生のときは勉強が楽しかったけど、山Pやレインボーイズの人たちと一緒に仕事について学ぶのはそれ以上の楽しさがあった。

 こうして上機嫌になっていた私だが、山Pの次の一言で激しく動揺させられることになった。

 「ところで、今お前が詳しく説明してくれた教えを、彩花の前で実践することができたかな?」

 私はしどろもどろに言い返した。

 「で、でも、あれはハプニングっていうか……」

 「ただ、彩花も海城男子もハニーズのお客さんじゃぞ。そして仕事である以上、どんなお客さんにも誠心誠意を込めた対応をする必要があるじゃろ」

 ――悔しいけど、そのとおりだ。

 お店で彩花を見た瞬間、山Pの教えは全部吹き飛んでしまい、何も実践することができなかった。

 肩を落としてうつむいていると、山Pが言った。

 「それが今回の学びじゃよ」

 「え?」

 驚いて顔を上げると、山Pは椅子から飛び降り、部屋をゆっくりと歩きながら語った。

 「正しい教えを知識として身につけたからといって、いきなりうまくいくわけではない。予想外のことが起きて失敗することもあるじゃろう」

 そして山Pは優しい口調で言った。

 「それでええんじゃよ」

 山Pは続けた。

 「自転車の乗り方を知っても、自転車に乗れるようになるまではぶつかったり転んだりするように、仕事もどんどん失敗しながら覚えていけばええんじゃ。それよりも問題は――」

 山Pは立ち止まり、こちらに振り向いて言った。

 「最初から完璧にやろうとするあまり、一度の失敗で心が折れてしまったり、正しい教えを『間違っている』と考えてしまうことなのじゃ」

 山Pは続けた。

 「お前に初めて会った日、ワシは言うたじゃろ。偉大な結果を残した多くの者たちが、最終的には同じ考えに辿りついておると。つまり、お前がどうすれば夢をかなえられるかは、すでに答えが出ておるのじゃよ。ワシやレインボーイズの教えは、伝え方が違うだけで、基本的には同じ教えなのじゃ」

 山Pは歩きながら、熱のこもった口調で言った。

 「しかし、目の前の現実がうまくいかないと、正しい教えを知っておったとしても、その教えを自分に都合よく捻じ曲げてしまう。そうすると最初は気持ち良いかもしれんが、結局は苦しい思いをすることになる。なぜなら、その方法で夢がかなうことはあり得んのじゃからな」

山Pは立ち止まり私の方に振り向いて言った。 

 「失敗してもええんじゃよ」

 山Pは続けた。

 「どれだけ失敗して恥をかこうが気にすることはない。いや、そもそも失敗は恥ではないのじゃ。少なくともワシは――お前自身であるワシは――お前の失敗を誇りに思うぞ。失敗とは、何かに挑戦したという証であり、この世界に存在する因果関係を経験によって学ぼうとする姿勢に他ならんからな」

 そして、山Pは遠い目をして言った。

 「そのことをお前の年齢のときに理解しておったら、ワシには違った人生があったじゃろう」

 山Pの言葉を聞いたときは、私は、私のためだけじゃなく山Pのためにも、自分の夢をかなえたい、かなえなければならないと思った。

 山Pの言った言葉を丁寧にノートに書き加えると、山Pは満足そうにうなずいて言った。

 「それでは次の課題に移るとするか」

 「はい」

 どんな課題を出されても失敗を恐れずに挑戦しようと思い、気合を入れながら待ち構えた。

 しかし、山Pが新たな課題を口にした瞬間、

「無理無理無理無理!」

 首を高速度で横に振ることになった。

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REVIEWS

評価

12344

良いと思うところ

水野先生の小説であるというところ

良くないと思うところ

バスケットの試合を小説で読んでも、クソ面白くないですね。映像化を前提に書かれているのかな?とは思いますが…

レインボーズのメンバーがいまいちイメージできないのですが、どこかに登場人物一覧表とかありますか?

紙の小説の場合は、ページを繰って戻るのも楽しく、それが醍醐味だったりしますが、電子小説でいちいち登場人物を「これ誰だっけ?」って感じた時、初登場の場面を探して戻るとかしたくないので、登場人物は常にリンクになってて、そいつが誰か忘れた時はクリックすれば説明が見れるといいなと思います。

かおり
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 著者からの返事

これは大事な問いですね。現在、イラストが入ってない状態ですが、山Pがレインボーイズの7人と現れたときに魅力的なイラストが入っているとして、、、この「レインボーイズ」がそれぞれのアトラクションで教えてくれる、というのが本作の前編で面白がっているところではあります。この判断は難しいですし、連載向きでない部分もありますが引き続き感想いただきたいです。よろしくお願いします。

2018年3月1日 11時22分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

水野先生のポリシーの一つとされる、失敗は気にすることはない、失敗して恥じをかかないと成長しないことを、山Pが真剣に教えるところはやっぱり良かったです。「失敗は挑戦した証」が響きます^_^全て意味のある、成長、成功へのステップで!
改めてタメになりました

良くないと思うところ

書くの恐縮で…
良くないところに書くの恐縮で...。
とは言っても、歳もまりちゃんみたいに若ければ、失敗を恐れず挑戦に情熱的にもなるけれど…と思う読者も多いかと思ったり(自分は違うと思っていますが(笑)なので、いつか山Pの、失敗を前向きに受け止めて立ち上がったエピソードがあればなあと思います^ ^

あと、ハートの連打に戸惑います。。最終先生方のタメになってるかなあなんて。

Shiho☆
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コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
挑戦については「後編」で再び出てくるのでそのとき全体としてどう映るかで感想いただけるとうれしいです。引き続きよろしくお願いします。
ハートの連打はぜひお願いします。笑

2018年3月1日 11時23分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

昨日読み直しててはっとなりました。

一度の失敗で正しい教えを
『間違っている』と考えてしまうこと、
うまくいかないと、正しい教えを自分に都合よく捻じ曲げ、結局苦しくなってしまう。
なぜなら、その方法で夢がかなうことはあり得ないから。

これは衝撃ですね。
こんなに的確に失敗した後の問題点を
わかりやすく指摘してくれてるのは
水野先生が初めてではないでしょうか?
私が知らないだけかもしれませんが、
少なくともこれを読んで自分がそうなっていたことに気づけたので良かったです!
ありがとうございます。

良くないと思うところ

良くないことはないのですが少しだけ思ったことをひとつ…
今回の学びの内容も素晴らしいかったです!
ですが、最初山Pがそれが学びじゃよと言ったときに
ん?どこだろう?と思ってしまいました。
そのあと、それについてちゃんと
説明があったので大丈夫なのですが、
「ハプニングで教えをできなかった真理」
より、
「何かに挑戦して失敗した後の真理」
という自然な流れで読んでみたいかなとも思いました。
でもそれだと普通すぎるのでしょうか?
素人意見ですみません。


ぐち
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