*
(どうやって山Pに報告すれば良いんだろ……)
何度もため息をつきながら、ハニーズから駅への道を歩いていると、
「こんばんは」
突然、背後から声をかけられて振り向いた。
そこにいたのは派手な柄のパーカーを着た男の人で、ハーフのような顔にくりくりとした大きな瞳が印象的だった。彼は、あどけない笑みを浮かべて言った。
「僕のこと覚えてる?」
(え? どういうこと?)
こんなカッコイイ人が知り合いだったら絶対覚えているはずだが、見覚えはない。
私が首をかしげていると、男の人は自分を指差して言った。
「ええーっ、覚えてないの? 俺だよ、俺! 緑川! 緑川柚(ゆず)!」
見たことも聞いたこともない名前だ。すると彼は、両肩を落とし、
「ショックだよ……覚えられてないなんて」
と言い、両手の甲を目に当て「えーん、えーん」とわざとらしい子どもの泣き真似をしたあと、その手でカッコ良いポーズを取って、
「緑川くんです!」
と言った。
(イラスト1、2)
それはお笑い芸人の一発ギャグを思わせる動きであり、私はやっと状況を理解した。
(私、今、ナンパされてる――)
初めての経験だから分からなかったけど、これがいわゆるナンパというやつなのだろう。「覚えてる?」と聞かれたのも、初対面なのにわざとそう言うことで会話のきっかけを作りたかったのだ。
(やっべー、私、ナンパされちゃってるよ!)
ハニーズの可愛い制服を着て仕事を頑張ってるから、オーラみが出始めちゃってるのかもしれない。
緑川くんは言った。
「これから少し時間ある?」
ほら来た! やっぱりナンパじゃん!
(どうする? どうするのよ、真理!)
緊張と興奮で私の頭が高速回転し始めた。
こうなってくると次の問題は――この人にどのラインまで許すのかということだった。
(もし「今からドライブ行かない?」って言われたら? これはさすがにNG。まりりん的にNG。いきなり車という密室を許してしまうと軽い女だと思われて今後の関係に少なからぬ悪影響を与えると思われる。ではお茶は? これは迷う。ただ、相手がこれだけぐいぐい来ちゃってるわけだから、それに流されるよりは連絡先を渡すだけに留めるのが正解かもネ)
そんなことを考えながら返答に困ったフリをしていると、緑川くんは言った。
「今から僕と、バスケしない?」
「はぁ?」
想像もしなかった言葉に眉をひそめる。
(どういうこと? バスケって……バスケットボールのことだよね? でも今から二人でバスケットボールっていくらなんでも意味不明すぎだから「バスケ」は私の聞き間違えで、本当は「ラスク」って言ったとか? でもラスクはするものじゃなくて食べるものだし、さすがに「バ」と「ラ」を聞き間違えるほど私の耳は鈍っちゃいない。てことは、「バスケしない?」じゃなくて「バス消さない?」だったとか? でも二人でバスを消すってどういう状況? 初対面でイリュージョンの協力って段階飛ばしすぎじゃない?)
わけが分からず戸惑いまくっていると、緑川くんは目を輝かせて言った。
「やろうよバスケ。楽しいよ! めっちゃ盛り上がるよ!」
その言い方で確信した。この人、マジで私をバスケに誘ってる!
(もしかしたら、かなりヤバい人なのかもしれない……)
不安になった私は、適当な言い訳をしてその場から立ち去ろうとした、そのときだった。
「そうやって人に心を開かんから、岩尻とも仲良くなれんのじゃないか?」
声のした方に顔を向けると、
(え―――)
衝撃でその場に固まってしまった。
歩道にバスケットボールウェアを着た山Pがいて、バスケットボールをすごい勢いで地面に打ち付けていた。
(イラスト入る)
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評価
良いと思うところ
水野先生の小説であるというところ
良くないと思うところ
バスケットの試合を小説で読んでも、クソ面白くないですね。映像化を前提に書かれているのかな?とは思いますが…
かおりレインボーズのメンバーがいまいちイメージできないのですが、どこかに登場人物一覧表とかありますか?
紙の小説の場合は、ページを繰って戻るのも楽しく、それが醍醐味だったりしますが、電子小説でいちいち登場人物を「これ誰だっけ?」って感じた時、初登場の場面を探して戻るとかしたくないので、登場人物は常にリンクになってて、そいつが誰か忘れた時はクリックすれば説明が見れるといいなと思います。
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コメントの評価
著者からの返事
これは大事な問いですね。現在、イラストが入ってない状態ですが、山Pがレインボーイズの7人と現れたときに魅力的なイラストが入っているとして、、、この「レインボーイズ」がそれぞれのアトラクションで教えてくれる、というのが本作の前編で面白がっているところではあります。この判断は難しいですし、連載向きでない部分もありますが引き続き感想いただきたいです。よろしくお願いします。
2018年3月1日 11時22分 水野敬也評価
良いと思うところ
水野先生のポリシーの一つとされる、失敗は気にすることはない、失敗して恥じをかかないと成長しないことを、山Pが真剣に教えるところはやっぱり良かったです。「失敗は挑戦した証」が響きます^_^全て意味のある、成長、成功へのステップで!
改めてタメになりました
良くないと思うところ
書くの恐縮で…
Shiho☆良くないところに書くの恐縮で...。
とは言っても、歳もまりちゃんみたいに若ければ、失敗を恐れず挑戦に情熱的にもなるけれど…と思う読者も多いかと思ったり(自分は違うと思っていますが(笑)なので、いつか山Pの、失敗を前向きに受け止めて立ち上がったエピソードがあればなあと思います^ ^
あと、ハートの連打に戸惑います。。最終先生方のタメになってるかなあなんて。
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コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年3月1日 11時23分 水野敬也挑戦については「後編」で再び出てくるのでそのとき全体としてどう映るかで感想いただけるとうれしいです。引き続きよろしくお願いします。
ハートの連打はぜひお願いします。笑
評価
良いと思うところ
昨日読み直しててはっとなりました。
一度の失敗で正しい教えを
『間違っている』と考えてしまうこと、
うまくいかないと、正しい教えを自分に都合よく捻じ曲げ、結局苦しくなってしまう。
なぜなら、その方法で夢がかなうことはあり得ないから。
これは衝撃ですね。
こんなに的確に失敗した後の問題点を
わかりやすく指摘してくれてるのは
水野先生が初めてではないでしょうか?
私が知らないだけかもしれませんが、
少なくともこれを読んで自分がそうなっていたことに気づけたので良かったです!
ありがとうございます。
良くないと思うところ
良くないことはないのですが少しだけ思ったことをひとつ…
ぐち今回の学びの内容も素晴らしいかったです!
ですが、最初山Pがそれが学びじゃよと言ったときに
ん?どこだろう?と思ってしまいました。
そのあと、それについてちゃんと
説明があったので大丈夫なのですが、
「ハプニングで教えをできなかった真理」
より、
「何かに挑戦して失敗した後の真理」
という自然な流れで読んでみたいかなとも思いました。
でもそれだと普通すぎるのでしょうか?
素人意見ですみません。
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