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(すっごい見られてる……)
私たちのいるバスケットコートの周りには、たくさんの見物客(主に女子)が集まってきていた。
ここは時間単位で料金を払えば、バスケやフットサルなど色々なスポーツが体験できる施設だけど、観客がこんな風に集まることはないはずだ。
でも、注目を浴びていることに対する心地良さはなかった。
彼女たちの目当てはレインボーイズであり(桃瀬さん、赤音さん、橘さんの印象が強すぎて忘れていたけど、レインボーイズは7人いて、緑川くんもその一人だった)、制服姿で紛れている私に向けられていたのは攻撃的な視線だった。
「まりりん、危ない!」
突然、声が聞こえたかと思うと、頭に強い衝撃が走った。バスケットボールが飛んできていた。
「まりりん、大丈夫か?」
赤音さんが駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫です」
と頭をおさえながら答えたが、観客の方からあざけるような笑い声が聞こえてくる。
「何をぼーっとしておるんじゃ」
桃瀬さん、橘さんとパス回しをしている山Pが厳しい口調で言った。
「この勝負に負けたらお前はアイドルにはなれんのだぞ? 本当にそのことが分かっとるのか?」
その言葉で私の身体はますますこわばった。
運動が得意だったのは小学生のころだけで、中学の途中で部活を辞めてからはずっと帰宅部だ。そんな私がバスケットボールの試合なんてまともにできるのだろうか。
不安になっていると、背中をバン! と大きな手で叩かれた。
「なんて顔してんだよ、まりりん」
赤音さんは言った。
「こんな試合楽勝だよ」
そう言って赤音さんは自分に親指を向けた。
「なんてったって、こっちのチームには俺がいるんだからな」
ボールを持った赤音さんはゴールに向かってすごいスピードでドリブルをしていくと、ボールを両手で持って高く飛び上がりダンクシュートを決めた。
観客たちから、歓声があがる。
――そうだ。私のチームには赤音さんがいるんだ。
チーム決めのじゃんけんで勝った私は、一番運動神経が良さそうな赤音さんを選んだ。山Pは桃瀬さんを選んだので、赤音さんと犬猿の仲の橘さんを避け、緑川くんを選んだ。
(大丈夫だ。きっと赤音さんと緑川くんがなんとかしてくれる)
そう自分に言い聞かせ、ウォーミングアップを再開した。
試合は3オン3のルールで、ツーポイントラインの外側からシュートを決めると2点、内側は1点。前後半10分ずつだが、どちらかのチームが21得点先取した場合、試合終了になる。
コイントスで私たちのチームは後攻になった。相手チームは、コートの中央に桃瀬さん、左側に橘さん、右側に山Pが立っている。そして、桃瀬さんに対して赤音さん、橘さんには緑川くん、私は山Pをマークすることになった。
(イラスト)
「それでは試合開始じゃ!」
山Pがタイマーをセットしてホイッスルを鳴らすと、試合が開始された。
この試合に負けたら山Pから何も教えてもらうことができなくなる。しかもコートの周りにいる大勢の観客たちから視線が突き刺さり、いつ吐いてもおかしくないくらい緊張が高まっていた。
ボールを持つ桃瀬さんの前には、大きく両手を広げた赤音さんが立ちはだかっている。
赤音さんが桃瀬さんに向かって言った。
「桃瀬、この半径1メートル以内からボールを外に出せると思うな……」
赤音さんが話している途中、桃瀬さんはボールを見ずに背中を通してパスを出した。
(え――)
一瞬の出来事で何が起きたか分からなかった。
私が次に見たのは、ボールを受け取った橘さんがツーポイントラインの向こう側でジャンプしてる光景だった。
橘さんの手からボールが放たれる。
ボールは美しいシュプールを描き、そのままゴールネットに吸い込まれていった。
「ナイスシュート!」
橘さんと桃瀬さん、山Pがそれぞれハイタッチを交わした。観客席から大きな歓声があがる。
あまりの素早い展開に言葉を失っていたが、ぼーっとしている時間はなかった。
試合が再開されると、桃瀬さんは再び橘さんにパスを出した。
ボールを受け取った橘さんはジャンプする。
シュートを防ごうと飛び上がった緑川くんの遥か上をいく橘さんはそのままシュートを放った。
ボールは先ほどとまったく同じ弧を描き、ゴールネットを揺らした。
先ほどよりもさらに大きな歓声が上がった。いつのまにか観客が増えている。
第6話ー2に続きます。
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評価
良いと思うところ
水野先生の小説であるというところ
良くないと思うところ
バスケットの試合を小説で読んでも、クソ面白くないですね。映像化を前提に書かれているのかな?とは思いますが…
かおりレインボーズのメンバーがいまいちイメージできないのですが、どこかに登場人物一覧表とかありますか?
紙の小説の場合は、ページを繰って戻るのも楽しく、それが醍醐味だったりしますが、電子小説でいちいち登場人物を「これ誰だっけ?」って感じた時、初登場の場面を探して戻るとかしたくないので、登場人物は常にリンクになってて、そいつが誰か忘れた時はクリックすれば説明が見れるといいなと思います。
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コメントの評価
著者からの返事
これは大事な問いですね。現在、イラストが入ってない状態ですが、山Pがレインボーイズの7人と現れたときに魅力的なイラストが入っているとして、、、この「レインボーイズ」がそれぞれのアトラクションで教えてくれる、というのが本作の前編で面白がっているところではあります。この判断は難しいですし、連載向きでない部分もありますが引き続き感想いただきたいです。よろしくお願いします。
2018年3月1日 11時22分 水野敬也評価
良いと思うところ
水野先生のポリシーの一つとされる、失敗は気にすることはない、失敗して恥じをかかないと成長しないことを、山Pが真剣に教えるところはやっぱり良かったです。「失敗は挑戦した証」が響きます^_^全て意味のある、成長、成功へのステップで!
改めてタメになりました
良くないと思うところ
書くの恐縮で…
Shiho☆良くないところに書くの恐縮で...。
とは言っても、歳もまりちゃんみたいに若ければ、失敗を恐れず挑戦に情熱的にもなるけれど…と思う読者も多いかと思ったり(自分は違うと思っていますが(笑)なので、いつか山Pの、失敗を前向きに受け止めて立ち上がったエピソードがあればなあと思います^ ^
あと、ハートの連打に戸惑います。。最終先生方のタメになってるかなあなんて。
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コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年3月1日 11時23分 水野敬也挑戦については「後編」で再び出てくるのでそのとき全体としてどう映るかで感想いただけるとうれしいです。引き続きよろしくお願いします。
ハートの連打はぜひお願いします。笑
評価
良いと思うところ
昨日読み直しててはっとなりました。
一度の失敗で正しい教えを
『間違っている』と考えてしまうこと、
うまくいかないと、正しい教えを自分に都合よく捻じ曲げ、結局苦しくなってしまう。
なぜなら、その方法で夢がかなうことはあり得ないから。
これは衝撃ですね。
こんなに的確に失敗した後の問題点を
わかりやすく指摘してくれてるのは
水野先生が初めてではないでしょうか?
私が知らないだけかもしれませんが、
少なくともこれを読んで自分がそうなっていたことに気づけたので良かったです!
ありがとうございます。
良くないと思うところ
良くないことはないのですが少しだけ思ったことをひとつ…
ぐち今回の学びの内容も素晴らしいかったです!
ですが、最初山Pがそれが学びじゃよと言ったときに
ん?どこだろう?と思ってしまいました。
そのあと、それについてちゃんと
説明があったので大丈夫なのですが、
「ハプニングで教えをできなかった真理」
より、
「何かに挑戦して失敗した後の真理」
という自然な流れで読んでみたいかなとも思いました。
でもそれだと普通すぎるのでしょうか?
素人意見ですみません。
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