仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第6話-2

私は唖然としながら思った。

(チーム決めのじゃんけんで勝ったとき、最初に橘さんを取るべきだったんじゃ――)

「緑川、代われ!」

 イラだった口調で赤音さんが言い、橘さんのマークについた。

 試合が再開し、桃瀬さんのボールキープから始まった。

 マークが変わったことを気にする様子もなく、桃瀬さんは橘さんにパスを回した。

「もうお前に、気取ったシュートは打たせねぇぞ!」

橘さんと同時に赤音さんもジャンプしたけど、橘さんの動きはフェイントだった。橘さんはシュートをせずにパスを出した。その先にいたのは山Pだ。

 私はあわてて山Pの後を追ったが、山Pはそのままドリブルをして軽々とランニングシュートを決めた。

 「ナイスシュート! 山P!」

 山Pが両手を挙げると、左右の手にそれぞれ、桃瀬さんと橘さんがハイタッチした。

 さらにそのあと、橘さんのシュートを赤音さんが妨害してファウルとなり、2ポイントに加えてフリースローで1点が加えられた。

 (このままだと、21点なんてすぐに入れられちゃうんじゃ……)

 もう、どうして良いか分からず、ただただ焦っていると、

 「タイム!」

 コートに甲高い声が響き渡った。

 手でTの字を作っていたのは、緑川くんだった。

 3オン3のルールでは各チーム一度だけタイムアウトが認められている。

 私たちはコートの外に出ると緑川くんはにこにこと笑いながら言った。

 「赤音のダンク、早く見たいな」

 肩で息をしている赤音さんは吐き捨てるように言った。

 「そんなこと言うためにタイム取ったのか」

 しかし、緑川くんは赤音さんのイラ立ちを

 「そうだよ」

 と受け流し、口を開けて舌を出した。そして舌を伸ばしたまま左右に振り始めた。

 「お前、何やってんだ?」

 「知らないの? 伝説のバスケットボールプレイヤー、マイケル・ジョーダンは試合中にこうやって舌を出してリラックスしてたんだよ」

 「マジかよ」

 「マジだよ」

 赤音さんが舌を出すと、緑川くんは大きく舌を出たまま私に顔を向けて言った。

 「ほら、まりりんもやってみて」

 ただ、舌を出したまま言ったので実際には、「ほは、まひひんほ、はっへみへ」になっていた。

 私も言われたとおり舌を出したが、わざわざタイムを取ってみんなで集まって舌を出しているのがおかしくて、笑い出してしまった。

 「何をやっておるんじゃあいつらは」

 山Pのあきれ声が聞こえる。

 緑川くんは言った。

 「まりりん、足速いよね」

 「え?」

 「50m何秒くらい?」

 「分かんないけど……」

 そう答えながらも、小学校のとき運動会でリレーの選手だったことを思い出す。

 「おい、緑」

 赤音さんが言った。

 「お前、まりりんの気を引こうとしてないか?」

 「バレた?」

 とおどけながら緑川くんが言う。

 「でもまりりんは本当に速いよね」

 すると赤音さんも、

 「確かにまりりんは足が速いから、もっと思い切って動いた方が良いな」

 そして赤音さんは笑って言った。

 「まりりんの身体をほぐすために、お姫様だっこしとくか?」

 「それ、どの部分のストレッチになるんだよ」

 赤音さんと緑川くんのやりとりに笑っていると、

 「おい、時間じゃぞ!」

 山Pに急かされて、私たちはコートに戻った。

 自分の持ち場につきながら、

 (一度だけのタイムアウトなのに、何の作戦も立てなくて大丈夫だったのかな……)

 そんな不安が頭をよぎったけど、ゲームが再開されるとその気持ちは吹き飛んだ。

 緊張で固まっていた自分がうそのように、体が軽く感じられたからだ。

 桃瀬さんと橘さんのパス回しは相変わらずうまく、ゴール間際で山Pにボールが回ってきたけれど、私は左右に大きく動いてガードした。そして山Pが無理な体勢から打ったシュートはゴールを外れ、赤音さんがジャンプキャッチした。

 「よし、ここからだぜ!」

 ボールを持った赤音さんはコートの中央に立ち、右手の人差し指を高く上げた。

 赤音さんのマークに橘さん、緑川くんの前には桃瀬さんが立っている。

 赤音さんは、目の前の橘さんに鼻先がつくんじゃないかというくらい顔を近づけて言った。

 「橘ぁ、まりりんの前でカッコつけたくて張り切ってたみたいだが、ここからは無様な姿をさらすだけだからな」

 橘さんは、ふんと鼻で笑って言った。

 「今頃、真理さんは後悔しているだろう。チームメイトとして選ぶべきはお前ではなく私だったと」

 「なんだとてめぇ!」

 赤音さんは橘さんに向かって大声ですごんだが、

 「……とみせかけて」

 赤音さんの隣を横切る人影にそのボールを手渡した。

 ボールを受け取ったのは緑川くんだ。

 緑川くんはそのまま素早いドリブルで一気にゴールを目指す。

 虚を突かれた相手チームは、桃瀬さんと山Pの二人がかりで緑川くんを追った。

 そして緑川くんはジャンプしてシュートを……あれ?

 ボールはなぜかゴールには向かわず、私の前に飛んできた。

 私はあわててボールをキャッチする。

 周りには誰もいない。

 (え? え? 私、これどうすればいいの?)

 呆然としたまま立っていると、二人の声が聞こえた。

 「まりりん、打て!」

 「シュートだ!」

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REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

水野先生の小説だから、面白くなるというお墨付きです。逆に言えばそう思わない人は読むのを止めてしまうかもしれません。

一週間毎更新になったのもいいと思います。

良くないと思うところ

完成したらきっと面白い作品になるでしょう。

ただ、連載している以上は、新聞小説のように、一話一話をもっと面白く、次への興味をもっと引いた方がいいと思います。

レインボーズが人数多くて、覚え切れない、登場した時イメージできないので面白くなくて、興味が薄れています。

自分で登場人物表を作るなどすればいいのかもしれませんが、読者は努力などせずただ楽しみたいだけなのでは?!!

かおり
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コメントの評価

 著者からの返事

今回のレインボーイズ緑川くんの登場が受け入れられてない感想が多いのですごく大事な指摘だと思っています。
これは本当に恐縮なのですが、全員が出て、前編と後編が終わった時点で、
「レインボーイズとのアトラクションを楽しむ」という軸がアリなのかナシなのか(かつ、ラノベのようにたくさんイラストが出てくるとして)感想頂けたらうれしいです。

2018年3月1日 11時25分 水野敬也
水野敬也
評価

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良いと思うところ

チーム、仕事仲間への親切心、誠実な、感謝の気持ちの大切さ、また相手を理解しようと努めることの大切さがわかりやすくて良かったです(^-^)
「摩擦を恐れず…」の摩擦がいいなぁと。孤独を恐れずとか、一人を恐れずとかだと、まりちゃんにはまだ重いかなぁと思うので^ ^

良くないと思うところ

緑川さんのキャラ、抑揚というか、もっとはっちゃけた場面があると活かされるような気がします(^^)バスケゴール決めたとき、卓球でいう「チョレイ‼︎」(笑)みたいな。

Shiho☆
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コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうごさいます。
レインボーイズは後半に出てくる人ほどキャラが強くないとダメだと思うのでさらに魅力を高める方向で考えてみます

2018年3月3日 7時35分 水野敬也
水野敬也
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