仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第6話-2

「ねえ、本当に大丈夫なの?」

スポーツ施設の近くのファミリーレストランで、山Pにたずねた。

「だから何度も言わせるな。転んだだけだと言うとるじゃろ」

山Pは温かい煎茶を飲んだ。

(咳き込んでいたように見えたんだけどな……)

不安は拭えなかったが、山Pは話題を変えるように言った。

「そんなことより、ちゃんと身につけられたのか?」

「身につけるって、何を?」

「今回のバスケの試合には色々な『教え』があったじゃろうが」

「え? そうなの?」

すると山Pはため息をつき、

「まあ、お前のことだからこうなるだろうとは思っとったが」

隣に座る緑川くんに顔を向けた。立っていた髪もさらさらになり、元通りの姿になった緑川くんはカルピスを飲んでいる。

「レインボーイズはそれぞれが仕事において重要な教えを持っておる。今回、緑川くんがお前に教えたのは『チームプレイ』じゃ」

山Pは続ける。

「どんな仕事も決して一人では完結せん。個人で仕事をしているように見えても、アシストしてくれる人がいたり、取引先がいたり……仕事とは常にチームで戦うものなのじゃ」

山Pの言っていることは理解できた。アイドルも基本はグループだし、事務所のマネージャーや、作曲家、振付師、ライブを運営する人たちを含めたら大勢のチームになるだろう。

山Pは続けた。

「緑川くんは、チームプレイというものを誰よりも深く理解しておる。もちろん、緑川くんの能力は一朝一夕で身につくものではないが、まずは基本的な姿勢を身につけるのじゃ」

 そして山Pはタブレットを操作してテーブルの上に置くと、空中に文字が浮かび上がった。

 長所を見つけて伝える

猫がじゃれるように緑川くんが文字をつつくと、文字はふわふわと揺れながら移動した。「これ、やめんか」と山Pは文字を元に位置に戻しながら言った。

「お前はこの、『長所を見つけて伝える』という教えを見て、どう思う?」

「どうって……大事なことだと思うけど」

「本当か?」

山Pは私の顔をのぞきこむようにして言った。

「お前はこれを見て『当たり前のことだ』と思ったんじゃないのか?」

――山Pの言葉は図星だった。

この教えを見たとき、正直、普通だなと思った。世の中でよく言われている言葉だ。

山Pは言った。

「ただ、その当たり前のことを、お前は岩尻に対してまったくできておらんじゃないか」

私が言葉を返せずにいると、山Pは言った。

「その理由は、お前がこの教えの本質をまったく理解しておらんからじゃよ」

文字にじゃれつこうとする緑川くんを止めながら、山Pは続ける。

「チームにおいて、何よりも大事にしなければならないのは信頼関係じゃ。信頼がなければ、協力して同じ目的に向かったり、ましてや自分の指示を聞いてもらうことは不可能じゃろう。そして、人と信頼関係を築く上で最も基本的なことが『その人の長所を見つけて伝える』ということなのじゃ」

山Pがタブレットを操作すると、テーブルの上にはハニーズで働く従業員たちのミニチュア像が映し出された。

「そのことを理解しておったら、同じチームの仲間と接するときはいつも『長所を見つけて伝える』ことを意識しておるはずじゃ。そして、見つけた長所はなんとしても伝えようとするじゃろう」

机の上に映し出されたスタッフたちを眺めた。

私は、岩尻さんだけじゃなく、他のスタッフに対しても長所を見つけて伝えるということができていたかを振り返った。少なくとも、緑川くんのように人の長所を見つけて自然に伝えるということはできていなかった気がした。

山Pがタブレットを操作すると新たな文字が映し出された。

愛嬌

「あい……これ何て読むの?」

「『あいきょう』じゃ」

こんな文字も読めんのか、とあきれ顔の山Pは続けた。

「チームの人間関係においては愛嬌も重要な要素じゃぞ。愛嬌があれば場を和ませたり、一緒に働く人を楽しませることができる。特に、緊迫した場面や皆が余裕を失っているとき、愛情のある言葉やユーモアは重い空気を一変するほどの効果があるのじゃ」

私は愛嬌の文字を指差して言った。

「私、これ得意かも。場の空気結構大事にするんだよね」

「だったら何で岩尻と険悪になっとるんじゃ?」

「それは……あの人の性格が悪いからでしょ」

「だが、岩尻とうまくやっとる人もおるじゃろう」

山Pの言葉に何も返せなかった。確かに、少数ではあるけど、岩尻さんと仲良くしているスタッフはいるのだ。

「愛嬌と一口に言っても色々あるが、お前はまず3つの基本からやり直す必要があるな」

山Pがタブレットを触ると、次の言葉が現れた。

「挨拶をする」「笑顔を絶やさない」「自分から話しかける」

この言葉を見て反省させられた。基本的なことだと分かっていながら、ハニーズではできていないことが多かった。

私がノートに書き終わるのを見て、山Pが言った。

「ただ、チームメイトと仲良くすることだけが目的ではないぞ。仕事とはあくまで『お客さんを喜ばせる』ためのものじゃ。そこで必要になるのがこれじゃ」

山Pのタブレットから文字が映し出された。

摩擦まさつを恐れず自分の意見を伝える

好きを送るためにログインしよう!

REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

水野先生の小説だから、面白くなるというお墨付きです。逆に言えばそう思わない人は読むのを止めてしまうかもしれません。

一週間毎更新になったのもいいと思います。

良くないと思うところ

完成したらきっと面白い作品になるでしょう。

ただ、連載している以上は、新聞小説のように、一話一話をもっと面白く、次への興味をもっと引いた方がいいと思います。

レインボーズが人数多くて、覚え切れない、登場した時イメージできないので面白くなくて、興味が薄れています。

自分で登場人物表を作るなどすればいいのかもしれませんが、読者は努力などせずただ楽しみたいだけなのでは?!!

かおり
まだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価

 著者からの返事

今回のレインボーイズ緑川くんの登場が受け入れられてない感想が多いのですごく大事な指摘だと思っています。
これは本当に恐縮なのですが、全員が出て、前編と後編が終わった時点で、
「レインボーイズとのアトラクションを楽しむ」という軸がアリなのかナシなのか(かつ、ラノベのようにたくさんイラストが出てくるとして)感想頂けたらうれしいです。

2018年3月1日 11時25分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

チーム、仕事仲間への親切心、誠実な、感謝の気持ちの大切さ、また相手を理解しようと努めることの大切さがわかりやすくて良かったです(^-^)
「摩擦を恐れず…」の摩擦がいいなぁと。孤独を恐れずとか、一人を恐れずとかだと、まりちゃんにはまだ重いかなぁと思うので^ ^

良くないと思うところ

緑川さんのキャラ、抑揚というか、もっとはっちゃけた場面があると活かされるような気がします(^^)バスケゴール決めたとき、卓球でいう「チョレイ‼︎」(笑)みたいな。

Shiho☆
まだこのコメントに「いいね!」がついていません
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうごさいます。
レインボーイズは後半に出てくる人ほどキャラが強くないとダメだと思うのでさらに魅力を高める方向で考えてみます

2018年3月3日 7時35分 水野敬也
水野敬也
ページトップに戻る