仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第6話-2

――今度は、難しい漢字に振り仮名が振ってあった。

山Pは言った。

「いつもみんなと和気あいあいと楽しく仕事ができればこんなに楽なことはない。しかし、仕事には他の競合との戦いという側面がある。それゆえに、ときに摩擦することになっても自分の意見を伝えねばならぬのじゃ」

私はバスケの試合の後半の緑川くんを思い出した。

もしあのとき緑川くんが厳しい意見を言ってくれなかったら、私たちは試合に勝つことができなかっただろう。

私は山Pに教えてもらったことをノートに書き、いつでも臨場感たっぷりに思い出せるように緑川くんのイラストを添えておいた。

(イラスト 真理のメモ)

「まりりん、絵うまいねー」

緑川くんがノートを見て言った。緑川くんは、お世辞じゃなくて本音をそのまま口にしている雰囲気があるから素直に喜べる。

緑川くんは言った。

「まりりん、実はもう一つ大事なことがあるんだよ」

そして緑川くんは「ちょっとペン借りるね」とノートに文字を書き込んだ。

(イラスト 「このチームを最高だと思う」の文字)

「『このチームを最高だと思う』?」

「うん」

緑川くんはうなずいて笑った。

「だって、最高のチームだったじゃん」

 緑川くんの言葉よりも笑顔の可愛いさに気を取られてぼーっとしていると、

「それでは何の説明にもなっとらんじゃろ」

山Pは緑川くんの書いた文字を指差して言った。

「『自分のチームを最高だと思う』――これはチームプレイの極意と言えるものだが理解するのは難しく、また、実践するのはさらに難しい。心して聞くのじゃぞ」

そして山Pは鋭い視線で言った。

「お前はバスケの試合中、『チームメイトに足を引っ張られてる』と思わんかったか?」

山Pの言葉にギクリとした。

私は赤音さんがファウルを繰り返し始めたとき、(橘さんを選んでおけば良かった)と思ったからだ。

山Pは言った。

「このことは覚えておくと良い。仕事をする上で、お前の足を引っ張る者は『一人もいない』」

「で、でも……」

反論しようとする私の言葉を引き取って山Pは続けた。

「分かっておる。確かにチームの中にはお客さんを喜ばせるという目的と逆の行動を取る者が出て来る。じゃが、目の前の仕事がうまくいかないのを、『誰かのせい』だと思った時点で、『自分は悪くない』つまり、『自分は変わらなくていい』と考え始めておるのじゃ」

――山Pの言っていることは間違っていない。

ただ、それでも納得できない自分がいた。もし厨房が岩尻さんじゃなかったら私はもっとのびのびと働けるはずなのだ。

そんな私の思いを察したのか、山Pは言った。

「無論、簡単なことではないぞ」

山Pは続けた。

「仕事を続けていけば、合わない人、嫌な人は現れるものじゃ。さらに、より質の高い仕事を目指すと、ペースの遅い人や仕事の粗い人にイライラさせられることになる。しかし――」

山Pはタブレットを操作しながら言った。

「過去の偉人たちが残した言葉の中でも、特に共通しておったのがこれじゃ」

山Pが指を動かすと、テーブルの上に文字が浮かんだ。

他人を変えることはできない。変えられるのは自分だけ。

その文字の後には、小さく、byヘンリー・フォード、アイルトン・セナ……という名前が並んでいた。

山Pは言った。

「この言葉は世界の真理を表しておる。そしてこの言葉を実践するために最も効果的な方法は、『今の自分にとって、このチーム(環境)は最高だ』と考えることなのじゃ。もちろん、どうしようもなく劣悪な状況の場合は、自分の身を守ることを優先せねばならないケースもあるじゃろう。しかし、まずは目の前の状況や周囲にいる人たちは、今の自分にとってベストだと考える。そうすることで、チームメイトの隠れた能力を引き出すことができたり、チームメイトは自分を成長させてくれる最高の存在だと気づくことができたりするのじゃ」

私がうなずきながらメモをしていると、山Pは緑川くんを指して言った。

「まあ、こいつはそんな理屈をこねんでも、自分のチームは最高だと思うとるがな」

すると緑川くんは屈託のない笑顔で言った。

「だって最高のチームだったじゃん」

そして緑川くんはカルピスに口をつけた。

――こんな風に思えるようになったら本当にすごいと思う。でも、もし緑川くんみたいになれたとしたら、私は間違いなくどんなチームからも必要とされる存在になるだろう。

(今日の試合は私にとってすごく大事な学びがあったんだな……)

そんなことを考えながら試合を振り返っていたのだけど、あることを思い出し、

「あっ!」

と声をあげてしまった。

周囲のお客さんが振り向いたけど、私は気にせず話した。

「そのことを教えるためにバスケの試合をしたなら、『負けたらアイドルになれない』っていうのは何だったの?」

すると山Pがフッと鼻で笑って言った。

「それはお前を本気にするための方便じゃよ。ワシはお前なのじゃぞ? もし万が一にもお前が弱音を吐こうものなら、尻をひっぱたいてでも頑張らせるわい」

そして山Pは、

「これからもビシバシ鍛えていくから覚悟しとけよ。ひょひょひょ!」

と高らかに笑った。

私は山Pがこんな風に笑うのを初めて見た気がした。

ただ、山Pが楽しそうにすればするほど、試合中に倒れていた山Pの姿が印象的に思い出されてしまった。


「真理 —成功と幸福の秘密を知ったアイドル」は毎週月曜日更新に変更します。

次回の更新は3月5日(月)です。

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REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

水野先生の小説だから、面白くなるというお墨付きです。逆に言えばそう思わない人は読むのを止めてしまうかもしれません。

一週間毎更新になったのもいいと思います。

良くないと思うところ

完成したらきっと面白い作品になるでしょう。

ただ、連載している以上は、新聞小説のように、一話一話をもっと面白く、次への興味をもっと引いた方がいいと思います。

レインボーズが人数多くて、覚え切れない、登場した時イメージできないので面白くなくて、興味が薄れています。

自分で登場人物表を作るなどすればいいのかもしれませんが、読者は努力などせずただ楽しみたいだけなのでは?!!

かおり
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コメントの評価

 著者からの返事

今回のレインボーイズ緑川くんの登場が受け入れられてない感想が多いのですごく大事な指摘だと思っています。
これは本当に恐縮なのですが、全員が出て、前編と後編が終わった時点で、
「レインボーイズとのアトラクションを楽しむ」という軸がアリなのかナシなのか(かつ、ラノベのようにたくさんイラストが出てくるとして)感想頂けたらうれしいです。

2018年3月1日 11時25分 水野敬也
水野敬也
評価

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良いと思うところ

チーム、仕事仲間への親切心、誠実な、感謝の気持ちの大切さ、また相手を理解しようと努めることの大切さがわかりやすくて良かったです(^-^)
「摩擦を恐れず…」の摩擦がいいなぁと。孤独を恐れずとか、一人を恐れずとかだと、まりちゃんにはまだ重いかなぁと思うので^ ^

良くないと思うところ

緑川さんのキャラ、抑揚というか、もっとはっちゃけた場面があると活かされるような気がします(^^)バスケゴール決めたとき、卓球でいう「チョレイ‼︎」(笑)みたいな。

Shiho☆
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コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうごさいます。
レインボーイズは後半に出てくる人ほどキャラが強くないとダメだと思うのでさらに魅力を高める方向で考えてみます

2018年3月3日 7時35分 水野敬也
水野敬也
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