仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第7話

 

 *

 仕事を終え、ハニーズを出た私が駅の近くまで歩いてくると、

 「なんだよあれ、映画の撮影か?」

 駅前ロータリーのガードレールの前で、数人が何かを指差して話していた。

 見ると、ロータリーに白色のリムジンが止まっていて、その周囲にSPが立っている。

 (さっきお店に来たヤバい人たちだ……)

 できるだけ関わらないようにしようと思い、身をかがめて駅の改札口に向かうと、

 「おい、どこにいくんじゃ!」

 聞き覚えのある声が耳に飛び込んで来た。

 顔を上げると、なぜか山Pがリムジンの窓から顔を出していた。

 (なんで山Pがそこにいるのよ⁉)

 戸惑うばかりだったが、山Pはすごい勢いで手招きをしている。

 私は猛烈にためらいながらも、仕方なくリムジンの方に向かって歩き出した。

 リムジンの車内はきらびやかな装飾がほどこされていた。白革張りの高級ソファの横にあるテーブルには高級そうなシャンパンが何本も冷やしてある。

 山Pはなぜか胸元の大きく開いたドレス姿で、シャンパングラスを片手に持って言った。

 「紹介しよう。彼はレインボーイズの一人、金城(きんじょう)サイード(かおる)じゃ」

 (この人、レインボーイズだったんだ……)

 改めて白ターバンの男を見ると、凹凸の深い目や鼻の形はすごく整っていてアラブ系のハンサムな若者だと分かる。

 胸をときめかせながら見ていたが、彼が発した言葉によって好感度は激減した。

 ターバン男は私を見て言った。

 「他のボーイズたちが熱を上げているようだから興味を持って見に行ったが、ただの小娘だったな」

 (なんなの、こいつ――)

 サイードの言葉にカチンときた私は言った。

 「あなた、今日、お店に来たのに何も注文せずに帰りましたよね。冷やかしとかやめてもらっていいですか?」

 するとサイードはゆっくりとした動きでシャンパングラスをかたむけると、ふんと鼻を鳴らして言った。

 「いや、そもそも私はあのような庶民の利用する店に入るつもりはなかったのだ。ただ、君がぼろ雑巾のような制服を着て馬車馬のように働かされているのを見て不憫に思ってね。店ごと買って下流労働から解放してやろうと思ったのだよ。ただ、君があまりにもあの店に馴染んでいたものだからね。私の住む世界との違いに興ざめして、店を買うのをやめたのだ」

 (こいつ、マジムカつくんだけど――)

 サイードの言葉に怒りをこらえられずに言った。

 「あんた、勝手なことばかり言ってるけど、ハニーズの制服のどこがぼろ雑巾なのよ」

 するとサイードは「ははは!」と高笑いして言った。

 「確かに、あの化学繊維丸出しの制服の原価は雑巾以下だろうから、雑巾に失礼だな。デザインも、10年以上前にアメリカのレストランで流行したものを模倣しただけで、むしろシンプルな雑巾の方が……」

 ――気づいたときには机の上のシャンパングラスを持ち、サイードに向かってぶちまけていた。制服をバカにされたことで、私だけじゃなくて一緒に働く人たちも侮辱された気がしたからだ。

 服についたシャンパンを手で払いながら、サイードは凄んだ。

 「……私が誰だか分かってやっているのか」

 「分かってるわよ」

 私はサイードに向かって言った。

 「人の気持ちが分からない成金男でしょ」

 「貴様……」

 「まあ、待たんか」

 にらみ合う私たちの間に山Pが入って言った。

 「どうじゃ? ここはひとつ勝負をするというのは」

 「勝負?」

 私は眉をひそめたが、サイードは「くだらん」と机の上にあったナプキンで服を拭きながら言った。

 「桃瀬たちとはバスケの試合をしたらしいが……私は子どものお遊びに付き合っている暇はない」

 すると山Pは言った。

 「遊びではない。これはビジネスの勝負じゃ」

 「ビジネス?」

 怪訝な表情をするサイードに向かって山Pは続けた。

 「サイード、お前は今日ハニーズを買おうとしたらしいが、今からするのは『最も利益を上げているファミレスを選ぶ勝負』じゃ」

 「ほう」

 サイードは興味を示したが、私には利益という言葉がピンと来なかった。

 そのことを察したのか、山Pは言った。

 「仕事を学ぶ上で、利益を避けて通ることはできんぞ。どんなアイドルグループも利益を上げられなければ解散しなければならなくなるからな」

 「か、解散⁉」

 山Pの言葉に思わず声を上げた。どれだけもてはやされていた時期があっても、人気がなくなったアイドルグループは解散に追い込まれる。もし私が将来アイドルになれたとしたら、解散は必ず避けなければならない。

 山Pは続ける。

 「ここから車で30分ほど先のターミナル駅周辺には3軒のファミレスがある。その中で最も利益を上げているファミレスを選ぶのじゃ」

 山Pは、私とサイードに挑発するような視線を送って言った。

 「どうじゃ? やるか?」

 するとサイードは含みのある表情で言った。

 「勝負というからには、勝者には褒美が必要だな」

 そしてサイードは眉をぴくりと動かして言った。

 「私が勝ったら、この女には日本式の謝罪をしてもらおう」

 (日本式の謝罪って……土下座のこと⁉)

 私は怒りで頭が爆発しそうだった。

 (こ、こいつ、男のくせに、か弱き女子高生の私に土下座させるつもりなの⁉)

 気づいたときには、サイードに向かって叫んでいた。

 「じゃあ私が勝ったら、あんたにはハニーズでアルバイトしてもらうからね! 私の代わりに毎日トイレ掃除してもらうよ!」

 サイードは鼻で笑って言った。

 「何の問題もない。なぜなら私がこの勝負に負けるなどということは万が一にもあり得ないのだからな。逆に、利益の一番上がっているファミレスをその場で買ってお前を雇ってやろう。ハニーズの倍の給料でな。ははは!」

 私は大声で笑うサイードに対して、

 (絶対にこいつの鼻っ柱をへし折ってやる!)

 闘志をみなぎらせた目でにらみつけた。

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

お客を喜ばせることは大切なことではあるけれど、最も大切なことはそうではない、働きがい、仕事上の矛盾を、まりちゃんが経験を通して理解したこと^ ^またルール一つにも意味のあること、などの気づきはこれからの仕事の価値観にプラスに影響すると感じさせてくれたことがかったです^_^

良くないと思うところ

本筋からそれますが^_^;サイードの夢(笑)C店の再建が気になり…エンディングでちょっと期待したり(笑)

Shiho☆
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コメントの評価

評価

12345

良いと思うところ

初登場したレインボーズのメンバーがイメージしやすい。

土下座好きですね!「すしどげざ」が見れるかと思ったんですが…(笑)

良くないと思うところ

今回はないので、前回のを…

「緑」の人…「派手な柄のパーカー、ハーフのような顔、くりくりとした大きな瞳」がイメージしにくい。強引な性格と見た目が合っていない。「赤」とカブる部分がある。

さらに、「橘」と「桃」も、優しい点がカブる。

かおり
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