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C店はB店からさらに10分ほど歩いた場所にあった。住宅街を抜け、少し開けた通り沿いにぽつんと建っていた。A店とB店は有名なチェーン店だったけど、このお店は聞いたことのない名前だった。
夜も深まってきているのでお客さんは少なかった。一人で来ている年配のお客さんが多い印象だ。
ただ、お店の雰囲気は柔和だった。メニューを開くと、子ども向けのメニューが充実していたり、年配のお客さんが読みやすいように文字が大きくしてあったりした。
呼び鈴を押すと、50代くらいの優しい感じの女性が注文を取っていった。
(良い雰囲気のお店だな)
好感を持ちながらトイレチェックに向かったが、こんな張り紙を見つけて悲しい気分になった。
「当店は今月末で閉店致します。ながらくのご愛顧ありがとうございました」
(このお店、閉店しちゃうんだ……)
閉店するということは、解散するということだ。他の理由もあるかもしれないけど、利益が上がっていなかった可能性は大いにあり得る。
私はこの時点でC店を候補から外すことに決めたが、このお店を楽しみにしている人たちのことを考えると胸が締めつけられた。
(閉店しちゃうんだったら、少しゆっくりしていこうかな)
そんなことを考えながらテーブルに戻ると、ちょうどサイードたちがお店にやってきたところだった。結構お酒を飲んだのか、酔っぱらっている様子だ。
「なんだこの辛気臭い店は」
ソファ席に座るなり、サイードは得意げに語り出した。
「利益が上がるのは大勢の人が集まる店、特に、若い女性が集まる店だ。こんな老人ばかりの店に未来などない」
SPの一人がサイードに耳打ちすると、「ははは!」と笑って言った。
「なんだ、今月閉店するのか。なんなら、今月末とまで待たず、今日潰した方が良い。その方がランニングコストも節約できて良いだろう」
そしてサイードはもう一度「ははは!」と高笑いした。
――もう、我慢の限界だった。
「いい加減にしなさいよ!」
私はサイードのテーブルの前まで歩いていき、彼に向かって言った。
「さっきから庶民、庶民ってバカにしてるけど、あんたが偉そうにできるのは誰のおかげだと思ってんの⁉ あんたが着てる服はどこの高級デザイナーが作ったのか知らないけど、服の材料を作ってくれたのは庶民でしょ⁉ あんたの乗ってるリムジンも、手足を使って作っているのは庶民なのよ! あんたもっとそういう人たちに感謝しなさいよ!」
怒りのあまり無我夢中で叫んでいると、隣に女性スタッフが来て、
「他のお客様のご迷惑になりますので……」
と注意されてしまった。
私は「すみません」と謝って席に戻ったが、怒りは収まらなかった。
(どうしてこんなに腹が立つんだろう)
飲み物に口をつけながら、ふとそんなことを考えたが、もしかしたら、これまでの自分の人生に関係しているかもしれないと思った。小学生のころは何でもできて周りからもちやほやされていた私は、中学生になってからどんどん周囲に追い抜かれ、バカにされるようになった。そのことに苦しんでいる私は、人から見下されたり、人が誰かを見下すことに敏感になっているのかもしれない。
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評価
良いと思うところ
お客を喜ばせることは大切なことではあるけれど、最も大切なことはそうではない、働きがい、仕事上の矛盾を、まりちゃんが経験を通して理解したこと^ ^またルール一つにも意味のあること、などの気づきはこれからの仕事の価値観にプラスに影響すると感じさせてくれたことがかったです^_^
良くないと思うところ
本筋からそれますが^_^;サイードの夢(笑)C店の再建が気になり…エンディングでちょっと期待したり(笑)
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評価
良いと思うところ
初登場したレインボーズのメンバーがイメージしやすい。
土下座好きですね!「すしどげざ」が見れるかと思ったんですが…(笑)
良くないと思うところ
今回はないので、前回のを…
かおり「緑」の人…「派手な柄のパーカー、ハーフのような顔、くりくりとした大きな瞳」がイメージしにくい。強引な性格と見た目が合っていない。「赤」とカブる部分がある。
さらに、「橘」と「桃」も、優しい点がカブる。
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