その日の午後の講義が終わって、京子は一度アパートに帰ってからバイト先の『デイリーデイリー』に向かった。
その日のシフトは大樹と一緒だった。大樹は相変わらず元気だが、そんな大樹を見ていると、やはり京子は少し複雑な気分になるのだった。
大樹が、あの女子大生ではなく、京子のことが好きだったら、話は簡単なのに、と京子は思う。そうしたら、京子にはもう彼氏ができていて、隼人とかいう翼のソックリさんなんかに惑わされることもないのだ。
いや、でも、と京子は思う。例えば私と大樹が付き合っていて、そこに翼にソックリなあの隼人が現れたとしたら、私はどういう風に感じただろうか?
下らない考えを京子は頭から振り払った。隼人も大樹も、もう他に相手がいるのだ。さっさと忘れて、前向きに他の男を探すべきだ。
仕事をしながら京子は、ふと美緒が隼人を『デイリーデイリー』に連れてこないだろうかと思った。合コンの男を連れてきたように。
美緒は京子がここでバイトしていることを知っている。京子が隼人に興味を持っていることもわかっている。美緒の性格なら、京子に見せつけるために隼人と一緒にやってきてもおかしくない。
そしてそこで、あの時の男のように、隼人が京子をムカつかせる言動を取ったなら、一発で嫌いになって、隼人を頭に思い浮かべることもなくなるだろう。
美緒がいつもの微笑みを浮かべて、隼人を連れてやってくる。もはやその光景を、京子はありありと想像することができた。美緒なら喜んでやりそうなことだ。今にも美緒と隼人が来店してくるのではないかと京子は仕事をしながらチラチラと自動ドアに目を向けた。
「……山之内さん、あの、山之内さん?」
ハッとして京子は振り返った。時々、目を向けるだけのつもりだったが、いつの間にか自動ドアから目を離せなくなってしまっていたのだ。
大樹が不思議そうな顔で、京子を見つめていた。
「外に何かあるんですか?」
大樹が自動ドアの方に目を向ける。
美緒と隼人の来店が気になって、自動ドアを見つめてボーっとしてしまうなんて、女子大生に見とれていた大樹みたいになってしまった。京子は心の中で、自嘲気味に笑った。
「いや、別に、何もないよ」
素っ気なく京子は答えた。
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