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　あくる日、学校で彩花たちを見かけた私は声をかけた。

　しかし、彼女たちの態度はあからさまによそよそしく、昨日のカラオケ店での出来事が尾を引いてるのは明らかだった。

　（せっかく居場所がみつけられたと思ったのに……）

　残念な気もしたが、これも縁がなかったんだとあきらめることにした。昔の私であれば、彩花たちに機嫌を直してもらおうとしたかもしれないけど、今の私にはハニーズという居場所があるのだ。

　しかし、この出来事は私の想像もしない形で波紋を広げることになった。

　それから２日後のこと。

　私はいつもどおり生活を続けていたが、突然、ほとんど話したことのないクラスメイトから声をかけられた。

　「真理ってアイエボのオーディション受けるんだよね？」

　――アイエボというのは『アイドルエボリューション』の略称で、新人アイドルを発掘するテレビ番組だった。毎週欠かさず見ているので大きなオーディションが行われるのは知っていたが、どうしてそんな話になっているのか分からなかった。

　しかし、その女の子が、

　「フェイスブックで応援ページもできてるよ」

　と言うのであわてて確認した。

　すると、そこにはハニーズで働く制服姿の私の写真と共に、「橋本明香里がバイトしていたという都市伝説を信じてアイドルを目指す山咲真理」という内容で私について面白おかしく書かれていたのだった。

　そしてその写真は、彩花たちがお店に来たときに撮ったものだった。

　「これ、どういうこと？」

　彩花を問いただすと、彼女は隣の友達と視線を合わせながら言った。

　「みんなで真理のこと話してたら盛り上がっちゃってさ。真理、アイドルなりたがってたから推薦しようって話になったんだよ」

　私のためを思ってしたような口ぶりだったが、明らかな悪意が感じられる。私がオーディションに受かるわけないと思っている彩花たちは、こうすることで私を校内のさらし者にしようとしているのだ。

　「この前のことを根に持ってるなら……」

　私がそう言うと彩花が「はぁ？」と表情を歪めた。

　「あんなのただのゲームでしょ。ていうかあの人たち頭おかしいよね」

　彩花が「ねぇ？」と他の女の子に同意を求めると、みんなは申し合わせていたかのようにうなずいた。

　私は思った。

　もし私が彩花と同じくらい周囲から評価されていたらこんなことになるのだろうか。

　彼女たちは私だから――普段から下に見ている私に恥をかかされたから――こんな極端な行動に出ているんじゃないだろうか。

　怒りに震えていると、彩花が言った。

　「私もオーディション受けることにしたから」

　そして彩花は続けた。

　「アイドルとかあんまり興味ないけど、色々経験しとくのも良いかなと思って」

　そして彩花は含みのある笑顔で言った。

　「だから、お互い頑張ろ」

　私は彩花の鼻っ柱をへし折ってやりたいと思ったけど、オーディションに合格する可能性は私の方がはるかに低いという現実を前にどうしていいか分からなかった。

「真理　—成功と幸福の秘密を知ったアイドル」は毎週月曜日更新です。

次回の更新は3月19日（月）です。