「ねえ、どうする? どうすればいいの? どうすればいいのよって! ねえ! ねえってばさぁ!」
部屋に戻った私は不安のあまり山Pの体をつかんで揺すり続けていたが、
「落ち着かんか!」
山Pに振り払われて床にへたりこんだ。
もう、本当にどうして良いか分からなかった。彩花にあんなことを言われたまま引き下がるわけにはいかない。でも、私がアイエボのオーディションを受けたら一次選考で落ちるのは目に見えていた。
私はもう一度山Pの体を揺すろうと思って立ち上がったが、
「大丈夫?」
山Pのそばに駆け寄った。山Pが咳き込んでいたからだ。
背中をさすろうとしたが、必要ないといった感じで手を止められた。山Pの、ゴホッ、ゴホッという咳の声だけが部屋の中に響いている。
咳が終わると、山Pは息を整えながら言った。
「……ワシがいつも答えを持っておると思ったら大間違いじゃぞ」
その言葉を聞いてさらに不安を強めた私に向かって、山Pは静かに言った。
「歴史はもう変わっておるのじゃ」
山Pは続けた。
「ワシはお前とは違って、彩花とはほとんど口をきかずに高校生活を終えた。そもそも、ハニーズのアルバイトも半年足らずで辞めておる。勝手にオーディションにエントリーされたのもワシの人生では起きておらん出来事じゃ」
そして山Pは再びゴホッと咳をすると、私の顔を見て言った。
「お前は、もう、ワシの知らない人生を歩み始めておるのじゃよ」
山Pの言葉で、命綱を切られたような感覚に陥った。
山Pの言うとおりに行動していれば夢に向かって着実に進んでいけると思っていた。山Pでも分からないことがあるなんて考えたこともなかった。
(私は一体どうしたら良いんだろう……)
彩花の勝ち誇った顔が思い浮かぶ。あんな風にバカにされたまま逃げ出したくない。でも、オーディションを受けて一次選考で落ちたら校内の笑いものになるだろう。そんな思いをするくらいならいっそのこと受けない方が……。
考えれば考えるほど弱気になっていく私に対して、山Pが言った。
「お前がどうすれば良いのか、その答えは分からんが、一つだけ分かっておることがある」
私が顔を上げると、山Pは言った。
「それは、お前自身が心の深いところでは、すでに答えを持っておるということじゃ」
その言葉で胸のあたりが一気に重くなった。
山Pは、私が向き合うのを避け続けてきた問題のことを言っているのだ。
アイドルオーディションには年齢制限があり、その多くが18歳だったりする。今、テレビで活躍しているアイドルも、中学生のときにグループに所属している人ばかりだった。
16歳という年齢は、アイドルを目指す上で、もう決して若くはないのだ。
「でも……」
私は顔をうつむけて言った。
「私……怖い」
すると山Pはゆっくりとうなずいて言った。
「そのことは、誰よりもワシが良く分かっておる」
そして山Pは言った。
「ワシは結局、人生で一度もアイドルオーディションを受けなかったからな」
私は、改めて山Pの姿を見た。体は私よりも小さく、その肌には年齢が深く刻み込まれている。
山Pは体を引きずるように動かして、椅子に腰かけて言った。
「ワシの人生を、語るべきときがきたようじゃな」
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評価
良いと思うところ
一転、地味な場面になりましたが、必要なシーンでしょう。オーディションで何が起きるのか?期待が膨らみます。
良くないと思うところ
何か書こうと思うんですが、特にないです。 山Pはジャニーズの山Pを連想させるのがチョット?とは思います。
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コメントの評価
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良いと思うところ
挑戦する強い気持ちの上でも、どうしても心のどこかにある甘えや隙を『みせかけの希望』で、それを知る知らないで大きく変わることを教えてくれて。とても大切なことを、わかりやすくてよかったです^ ^「みせかけの努力」がち、かもと…戒めたい。。
『ありったけの勇気』のありったけとか、強調する言葉がわかりやすくてまりちゃん世代の若い人(読者)へ響く伝え方でいいなあと。細かいところにキュンと(笑)本気の挑戦が楽しみです(^-^)
良くないと思うところ
(この回のよくないと思うところではなくて)
Shiho☆レインボーイズ、まりちゃん向けではありませんが…困っている人に自分の時間を捧げられる(割いてあげらる)イケメンがいたらいいなあと思います(^_^)仕事で困っている、悩んでいる時にいてくれたらなと。
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著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年3月25日 0時13分 水野敬也レインボーイズのキャラですが確かに真理に対する教えは「自分」が中心になっているので、「誰かのために」というポイントをドラマティックに見せる方法があるような気がしてきました。ありがとうございますー!