仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第9話

 私は山Pの前に行き姿勢を正して座ると、彼女はゆったりとした口調で語り出した。

 「最初に会うたとき、お前はワシにこう言ったのを覚えておるか? 『あなたはアイドルになれなかったからここに来たんでしょ?』。――そのとおりじゃ。そして、アイドルだけではない。ワシは、自分の人生で何一つ夢をかなえることはできんかった」

 山Pは長いため息をついてから話を続けた。

 「ハニーズを辞め普通の高校生活に戻ったワシは、それでも『本来の自分』を取り戻したかった。そこで高校を卒業したあと、普通の大学には進学せず東京の服飾の専門学校に入学したのじゃ。しかし周りにおったのはすでに自分で服を作って売っておったり、高校時代にデザインを学んできたり……ワシより先に行っておる者ばかりじゃった。そういう人らを間近に見たワシはどんどん自信を失って、結局、服飾とは全く関係のない仕事に就いた。そのときにはもう『時給の罠』にはまっておったな。それからいくつかの職業を転々としたが、『できるだけ楽で給料が高い仕事』だけを探しておった。そして――まだこのことはまだお前には教えておらんかったが――時給の罠にはある特徴があってな、この罠にはまると、時間が恐ろしく早く過ぎるのじゃ」

 山Pは自嘲するように言ったが、声には悲しみがにじんでいた。

 山Pは顔を上げ、鋭い視線で私を見て言った。

 「決して、後悔をため込んではならんぞ」

 山Pは続けた。

 「もし高校生の頃にアイドルオーディションに挑戦していたら――もし自分の人生でやりたいこと、好きなことに精一杯挑戦していたら――たとえその挑戦がうまくいかなかったとしても、自分の人生に満足することができたかもしれん。しかし、恐怖に囚われて行動を起こさず、『今の自分は本来の自分じゃないという思いだけ』を心の奥底に抱え続けると、最後には、因果関係を無視した見せかけの希望にすがりついてしまうんじゃよ」

 山Pは大きく息を吐き、話を続けた。

 「インターネットを使って短期間でお金を稼ぐ商売があると誘われてな。自分自身も広告塔になってその事業を始めたんじゃ。最初のころは多少うまくいってお金を集めることができたが、長くは続かんかった。そりゃそうじゃろう。稼ぐことや有名になることだけに囚われておったワシはお客さんを喜ばせることを考えておらんかったわけじゃからな。結局、事業は失敗して共同経営者は消え、借金だけが手元に残った」

 聞いているのがつらくて耳を塞ぎたくなった。でもこれは、山Pに会わなかった私が送っていたはずの人生なのだ。

 「そこからは大変じゃったなぁ」

 山Pは過去を回想するように少し沈黙してから口を開いた。

 「借金を返すために、とにかく仕事をした。色々やったのう。もう、起きている間中働いとったわ。こうなると、自分が何をやりたいのか考える暇すらなくなる。ただ、ひたすら、借金を返すためだけに働き続けたんじゃ」

 山Pはゴホッ、ゴホッと大きく咳き込んだ。

 「ただ、その生活が評価されたことで、こうしてお前に会うためのテクノロジーを使えるようになったのじゃよ」

 そして山Pはまた苦しそうに咳き込んだ。

 そんな山Pを見ているとたまらなくなって私は言った。

 「私が夢をかなえたら、山Pの人生も変わるの?」

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

一転、地味な場面になりましたが、必要なシーンでしょう。オーディションで何が起きるのか?期待が膨らみます。

良くないと思うところ

何か書こうと思うんですが、特にないです。 山Pはジャニーズの山Pを連想させるのがチョット?とは思います。

かおり
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コメントの評価

評価

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良いと思うところ

挑戦する強い気持ちの上でも、どうしても心のどこかにある甘えや隙を『みせかけの希望』で、それを知る知らないで大きく変わることを教えてくれて。とても大切なことを、わかりやすくてよかったです^ ^「みせかけの努力」がち、かもと…戒めたい。。
『ありったけの勇気』のありったけとか、強調する言葉がわかりやすくてまりちゃん世代の若い人(読者)へ響く伝え方でいいなあと。細かいところにキュンと(笑)本気の挑戦が楽しみです(^-^)

良くないと思うところ

(この回のよくないと思うところではなくて)
レインボーイズ、まりちゃん向けではありませんが…困っている人に自分の時間を捧げられる(割いてあげらる)イケメンがいたらいいなあと思います(^_^)仕事で困っている、悩んでいる時にいてくれたらなと。

Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
レインボーイズのキャラですが確かに真理に対する教えは「自分」が中心になっているので、「誰かのために」というポイントをドラマティックに見せる方法があるような気がしてきました。ありがとうございますー!

2018年3月25日 0時13分 水野敬也
水野敬也
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