仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第9話

 山Pはすぐには答えなかった。言葉を選ぶようにして話を続けた。

 「過去の自分に会う者のなかには、『お前が頑張ることで自分の人生も変わる』と言って努力をさせる者もおるらしいが――」

 山Pは続ける。

 「この世界はワシの世界とは違う、パラソル……パラレル……まあ呼び方はどうでもええ。とにかくお前がどんな人生を送ろうとも、ワシの世界には影響を及ぼさんのじゃ」

 私は――山Pに何て声をかけて良いのか分からなかった。

 私がどれだけ頑張ろうが山Pの人生は変わらない。彼女は人生の中で一つも夢をかなえまいまま、残り少ない人生を終えるしかないのだ。

 部屋は沈黙に包まれた。長い沈黙だった。

 「お前の人生は、お前のものじゃ」

 山Pは沈黙を破って語り出した。

 「だから、お前は自分で決めねばならん。今回のオーディションを受けるのか、受けないのか。今回のオーディションを彩花からの嫌がらせととらえるのか、一つの機会ととらえるのか、それはすべてお前の自由なのじゃよ」

 私はすぐに答えを出すことはできなかった。

 頭では、オーディションを受けるべきだと分かっている。

 でも、どうしようもなく怖いのだ。

 しかも今回は、テレビで放送される上に、学校の生徒たちにも知れ渡ってしまっているのだ。落ちたとき、どんなつらい思いが待っているのか想像もできなかった。

 (私は一体、どうすれば良いんだろう……)

 答えが見つからず悩み続けていると、ふと本棚の『ドリーム論。』が目についた。

 (こんなとき、あかりんだったら何て言うだろう)

 考えなくても答えは出ていた。『ドリーム論。』には次の一文が書いてある。

 「挑戦する前から失敗することを考えてどうするの?」

 でも、この言葉に興奮していたのは本を読んでいるとき――つまり、まだ何も挑戦していないときだ。実際にその状況が目の前に現れると、言葉はいとも簡単にその効力を失ってしまう。

 (やっぱり無理だ……)

 私は思った。

 (オーディションを受けるのはもっと先にして、ハニーズの仕事を続けながら……)

 そんなことを考え始めたとき、私はどうしても見過ごすことのできない事実に気づいてしまった。

 私がハニーズで働き始めたのは、あかりんがハニーズのアルバイト中にスカウトされたという噂があったからだ。ハニーズで働いていればいつかあかりんのようにスカウトされる日が来るかもしれない、そう思っていた。

 でも、オーディションを受けずに、ハニーズでスカウトされるのを待っている私は、まさに「みせかけの希望」にすがりついているじゃないか。

 もう、始まっていたんだ。

 ハニーズのアルバイト募集を探し続けていたときから、私は現実から目を背け始めていたんだ。

 今、勇気を出さなければ――自分の中にあるありったけの勇気を振り絞らなければ――私は一生、自分の生き方を後悔して生き続けることになる。一生「みせかけの希望」にすがりながら、一つも夢をかなえられず生きることになる。

 山Pが私に会いに来たのは、そのことに気づかせるためなんだ。

 私は顔を上げ、山Pの両目を見て言った。

 「私、オーディション受けるよ」

 山Pは何も言わなかった。でも何も言わなくても私のすべてが彼女には伝わっている気がした。


「真理 —成功と幸福の秘密を知ったアイドル」は毎週月曜日更新です。

次回の更新は3月26日(月)です。

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REVIEWS

評価

12345

良いと思うところ

一転、地味な場面になりましたが、必要なシーンでしょう。オーディションで何が起きるのか?期待が膨らみます。

良くないと思うところ

何か書こうと思うんですが、特にないです。 山Pはジャニーズの山Pを連想させるのがチョット?とは思います。

かおり
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コメントの評価

評価

12345

良いと思うところ

挑戦する強い気持ちの上でも、どうしても心のどこかにある甘えや隙を『みせかけの希望』で、それを知る知らないで大きく変わることを教えてくれて。とても大切なことを、わかりやすくてよかったです^ ^「みせかけの努力」がち、かもと…戒めたい。。
『ありったけの勇気』のありったけとか、強調する言葉がわかりやすくてまりちゃん世代の若い人(読者)へ響く伝え方でいいなあと。細かいところにキュンと(笑)本気の挑戦が楽しみです(^-^)

良くないと思うところ

(この回のよくないと思うところではなくて)
レインボーイズ、まりちゃん向けではありませんが…困っている人に自分の時間を捧げられる(割いてあげらる)イケメンがいたらいいなあと思います(^_^)仕事で困っている、悩んでいる時にいてくれたらなと。

Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
レインボーイズのキャラですが確かに真理に対する教えは「自分」が中心になっているので、「誰かのために」というポイントをドラマティックに見せる方法があるような気がしてきました。ありがとうございますー!

2018年3月25日 0時13分 水野敬也
水野敬也
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