仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第11話

 *

 

 学校の教室くらいの広さの部屋にパイプ椅子が10個並べられ、その前には長い机が置かれ、3人の男の人が座っていた。真ん中に座っている長髪の人は、『アイエボ』の準レギュラーで登場する長岡さんという音楽プロデューサーだ。

 (テレビに出てる人だ……)

 緊張感が高まったが私がさらに緊張することになったのは、部屋の隅で大きなカメラが回っていたことだ。

 この面接は録画され、テレビのオンエアに使われる可能性があるということだ。

 席に座りながら、ついにテレビの向こう側にある世界に来たことを実感していると、長岡さんは言った。

 「じゃあ右端の人から自己PRを……一人10秒でお願いします」

 (じゅ、10秒⁉)

 思わず声を上げそうになってしまった。

 私が調べたどのサイトにも、オーディションの自己PRは15秒から30秒と書かれてあった。私は水原くんに協力してもらって短いバージョンと長いバージョンを準備していたけど、どれだけ短くしても15秒きっかりで終わる内容だ。

 一番端の女の子が席を立ち、自分の名前を言ってから話し始める。

 「私は小さい頃からアイドルに憧れていまして、特に好きだったのが……」

 しかし彼女は「はい、時間です」と止められてしまった。

 一人目の子はまだ話したそうにしていたが座らされ、二番目の子が立ち上がった。

 (もうだめだ……)

 すでにこの時点で心が折れかけていた。

 緊張しすぎて何も話せなかったけど、その表情が魅力的でオーディションに合格したアイドルの話はあるけど、その子は可愛いから成立したんだと思う。私の場合はサービス精神を出し切ってやっと土俵に立てるかどうかなのに……。

 二番目の子が終わるころには、涙が出そうになってきた。

 私はオーディションに合格して山Pに胸を張って言うつもりだった。

 「私、絶対夢をかなえて幸せになるからね」と。

 それが――私が山Pにできる最大の恩返しだと思っていた。

 でも、それもかないそうにない。

 (ごめんね、山P)

 そう思いながら、山Pの顔を思い浮かべていたときだった。

 (ええ――⁉)

 長机の前に座る3人の面接官の向こう側に、山Pが立っていたのだ。

 山Pは手足を必死に動かして、ジェスチャーで何かを伝えようとしてる。自己PRのヒントのようだが、何を言わんとしているのかまったく分からない。

 (何? 何が言いたいの⁉)

 表情を歪めて伝わってないことを伝えるが、それすら伝わっているのか分からない。

 山Pの存在に対して周囲の女の子たちもそわそわとし始める。

 机の端に座っている人は手元の資料に視線を落としたまま、

 「次の人」

 と言った。ついに私の番が回ってきてしまった。

 (ああ! どうすればいいの⁉)

 私は混乱したまま立ち上がり、おもむろに山Pを指差して言った。

 「あ、あの……」

 眉をひそめる面接官たちに向かって私は言った。

 「みなさんの背後に、変なお婆さんが立ってます」

 「え⁉」

 同時に、面接官たちが振り向いた。長岡さんも「おわぁ!」と驚いて言った。

 「あんた誰だ⁉」

 山Pは呆然としながら私を見つめていた。そのときの山Pは「逆・晴天の霹レッキー」みたいな顔をしていた。

 「おい、警備員呼べ!」

 面接官の一人が叫ぶと、山Pは素早い動きで扉から逃げて行った。

 (ごめん、山P――)

 私は心の中で両手を合わせた。山Pのメッセージが読み取れなかった私は、時間稼ぎに使わせてもらうことにした。

 ただ、この騒動によって緊張が吹き飛び、私は自分の番が回ってくると思い切って言った。

 「私は、1日30分、必ず『エア握手会』の練習をしてます」

 すると面接官の人の顔がほころび、長岡さんが言った。

 「ちょっとやってみてよ」

 私は、「はい」とうなずき、息を大きく吸い込んで手を前に差し出した。

 そして、いつもやっているように、目の前にファンの人がいるイメージを思い描き、差し出された手を両手で丁寧に引き寄せて言った。

 「真理に会いに来てくれたんだぁ?」

 すると一瞬、部屋は静まり返り、そのあと3人の爆笑が響き渡った。

 「俺、彼女の前にファンの人見えましたわ」

 面接官の一人がおどけて言った。

 そのあと私が、ポケットティッシュのお兄さんの手を握ってしまった話も笑いを誘い、私の時間は、10秒どころか1分を超えていた。

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

今までの教えが全てまとめられている形でわかりやすくて、流れとポイントがぴったりと成長に繋がる行動に表されていて、良かったです、見事です!

その中でも一番良かったのは、実力以上の力をとてもまりちゃんらしい形で出せたところです、諦めずに^ - ^

偶然にも昨日は一般的に入社式でした。期待に不安、、、いろんな思いでスタートを切ったフレッシュマン全てに最初からここまでのところをはじまりの心得として勧めたいくらいです^ ^自分が人事や総務ならば(笑)
仕事に向いているかハマるまでとにかく必死に三年頑張ってみて、と(矛盾するかも⁈いやしないかな)「憧れ」を持ち続けて、大事な気持ち見失わずに進んで欲しいとo(^_-)O

また色紙の合格祈願、自分は緑川くんの言葉が一番好み(๑˃̵ᴗ˂̵)でした。次はサイードで(笑)自分の中ではサイード株ぐんぐん上がっています(笑)

よぉし!と勇気がわきたつ、最高に素晴らしい回でした(^-^)

良くないと思うところ

よくないと思うところはありません。まりちゃんの気持ちの切り替えの早さ、良さ、これも才能の一つですね^_^背負うものが無いならば、悩んでも自分ではどうしようもならないと、誰でも引きずらずにいけたらいいのにと思います。

Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
オーディションのシーンは実はかなり苦戦しているのでこうして前向きな感想もらえるのはありがたいです!

2018年4月3日 15時41分 水野敬也
水野敬也
評価

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良いと思うところ

山Pが何かを言おうとして、でも何を伝えたいのかまりりんにはわからず退場させるという展開が意外で、笑いました。
合格祈願の色紙、緑川くんの「1億%」は、将棋のハッシーの発言からとったのかな?とか、サイードの「CDを100~1000万枚買ってお前をセンターに」ではAKB総選挙で1000万枚投票すれば、推しをセンターにできるな!とか、細かいところまで楽しめました。

良くないと思うところ

コマ切れで読まなきゃいけないこと…くらいですかね。一気に読んでしまいたい感が高まっています!

かおり
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コメントの評価

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