私がどれだけ病院に行くように言っても山Pは頑なに拒むので、仕方なく部屋に連れ帰ることにした。
山Pを背負って離れに移動するのは楽じゃなかったけど、山Pの身体が思った以上に軽いことの方がショックだった。
ベッドに寝かせて布団をかけると、山Pが口を開いた。
「ワシはもう長くはないじゃろう」
山Pの体調が日に日に悪くなっていることには気づいていたが、はっきり口に出して言われると、もう目を背けるわけにはいかなかった。
私は山Pに向かって言った。
「山Pはやりたいこととかないの? やり残してることがあったら言ってよ。私、何でもするから」
すると山Pは微笑んで言った。
「やり残したことをやるために、ここに来たのじゃよ」
そして山Pは「ううっ」とうめき声をあげながら上体を起こそうとした。
私が「寝ててよ」と言っても聞き入れず、ヘッドボードに体を預けるようにして座った。
山Pはぜえぜえと息をしながら言った。
「ワシはな、もういつ死んで良いと思っておるんじゃ」
「ダメだよ!」
強い口調で言ったが、山Pは「まあ落ち着け」と話を続けた。
「ワシとて、もっと長く生きてお前に色々教えたい。ただ、いつまでもお前のそばにおることはできんのじゃ。どんな子どももいつか親と離れねばならんようにな」
そして山Pは諭すように言った。
「親孝行はしておけよ。ワシは母の死に目に逢えんかったからな。女手一つでお前を育ててくれたんじゃ。孝行はどれだけしてもし足りんくらいじゃぞ」
私は「うん、わかった」と返したが、「これは重要だからメモしておけ」と言われたのでノートを持ってきて開いた。
そして、山Pから言われたことを書き込んでいると、彼女はノートに視線を向けて言った。
「これまでワシはお前に色々なことを教えてきた。どの教えも今後のお前の人生を支え続ける大事なものじゃが、その中でも一つだけ、他のものより遥かに大事な教えがある」
「他のものよりも遥かに大事な教え……」
「そうじゃ。ワシはそのことをお前に伝えるためにこの時代にやってきた。そして――」
山Pは何度か咳き込み、息を整えてから私に顔を向けた。
「今日、その教えをお前に伝えることができたのじゃ」
私は山Pに向かって言った。
「その教えって、何なの?」
「それはな――『勇気』じゃ」
好きを送るためにログインしよう!
評価
良いと思うところ
最後に必要なのは勇気だと、いい意味で青臭くまっすぐに、勇気について書かれていて良かったです!例えの話もズバリそうだなぁと思いました。
良くないと思うところ
勇気が無いのはなぜか、、、得られるものが確実で無いしリスクが怖い、その通りだと。また、人と、周りと比べる罠にハマっていることも一つの要因のような気がしました。自分と本気で向き合って無いってことなんですよね、これも。
Shiho☆1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます!
2018年4月12日 12時12分 水野敬也そうですね、今回の教えはこの流れになると思いました。
次回あたりからまた色々感がなければならないことが増えるので、、、よろしくお願いします!
評価
良いと思うところ
別の意味の勇気はなかなか出ないですけどね…人前に出る勇気…そういうのを考えさせてくれたところ。
良くないと思うところ
短い
2018年4月10日 10時24分 かおり1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年4月12日 12時12分 水野敬也「短い」、、、確かに!