『アイエボ』オーディション1次審査の通過者は500人程度だと聞いた。オーディションはここからが本番だ。
でも、一番そばにいてほしい人が、いなくなってしまった。
そもそも私が一次審査を通過できたのも、山Pやレインボーイズたちがいたからなのに……。
(でも……)
不安に飲み込まれそうになる自分を奮い立たせ、私は鞄からノートを取り出した。
山Pがいなくなったとしても、山Pから教えてもらった言葉は私の中に生きている。
私はハニーズの更衣室でノートに書かれた言葉を丁寧に読んでからホールに向かった。
山Pはハニーズの仕事を続けることがオーディション合格にもつながると言っていた。きっと2次審査に合格するヒントもここにあるはずだ。
「いらっしゃいませ!」
来店したお客さんを最高の笑顔で出迎えて、席に案内する。
最近の私は、お客さんの雰囲気を見て会話を望んでいそうな人であればちょっとした雑談を、そうでない人はスピードを重視している。コミュニケーションを取ることだけでなく、時間を短縮することもサービスになる。私が何を提供したいかではなく、お客さんが何を受け取りたいかを考えるようになってから私の接客も変わってきた。
また、接客は、お店全体の利益を考えるようになってからも変化した。
たとえば、仕事を始めたばかりのころは、料理を少し残したまま放置されているお皿があっても(まだ食べているかもしれないから)と思ってそのままにしていた。
ただ、食事済みのお皿は下げた方がお客さんにとっても快適だし、お皿を下げることで帰るきっかけを作り回転率が上がるという面もある。
しかし、強引にお皿を下げてしまうと「まだ食べてるんだけど」と怒られる場合もある。
そこで私は、お客さんに「お済みでしたらお下げしてもよろしいですか?」とたずね、まだ食べていることが分かったら「申し訳ありません。ごゆっくりお過ごしください」とできるだけ可愛く謝るようにしていた(この、できるだけ可愛くというところがポイントだ)。
こういう形で、お客さんへの気遣いとお店の利益の接点を見つけていくことが仕事の本質であり、そのことを意識できるようになってきた。
しかし、山Pは言っていた。成長を続けていると、さらに次の成長を促すような出来事が起きるのだと。
そして――山Pの予言通りと言えるかもしれない――この日の終業時間間際にお店にやってきたのは彩花だった。
隣には、前に来たときと同じ翔院高校の男子を連れている。
胸のあたりに嫌なざわつきを覚えた。
レインボーイズの助けを受けられない今は、私一人でこの状況を乗り越えねばならない。
「いらっしゃいませ」
笑顔で二人を出迎えてテーブル席に通した。
空気はぴりぴりとしているが、私はハニーズのホールスタッフとしてやるべきことをこなしていく。
注文を取り終えたあと、彩花が言った。
「一次審査通ったんだってね」
「うん」
――私が『アイエボ』オーディションの一次審査に通ったことはすでに校内で広まっていた。これまで私をバカにしていた空気も一転し、応援ムードが広がっている。
「彩花も通ったんだよね」
私が言うと、彩花は笑って言った。
「通るに決まってるでしょ。最初からデキレースだったんだから」
「どういうこと?」
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評価
良いと思うところ
最後のレインボーズが、ちっちゃかったという意外性。
良くないと思うところ
次に楽しいことが起きるんだろうとは思うけど、この回はあまり面白くないし、理屈っぽい。
2018年4月16日 19時58分 かおり1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます!確かに、もっと笑いがあって良いような気がします!!!
2018年4月17日 15時54分 水野敬也評価
良いと思うところ
山Pとレインボーイズにもう会えないのかと思っていたところに新たなメンバー登場で嬉しかった!
キャラもレインボーイズの中で一番好きです笑
個人的にも真理ちゃんと同じ悩みを抱えているので、次のお話がすごく楽しみです!
良くないと思うところ
特にありません。
anmo早く続きが見たいです!
1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。最後のレインボーイズなので意外性と、キャラ立ちをさらに深めてみます!
2018年4月17日 15時54分 水野敬也評価
良いと思うところ
小さいレインボーイズ(笑)が登場するまでの流れがとても自然で感心しました^ ^まりちゃんの新たな不安をさらに掻き立てる彩花ちゃんの場面など。
『課題』の変化、世の中の変化の話しのところは諸行無常を分かりやすく、成熟していると勘違いしている、考え方を変えようとしない大人への警鐘にも…とれました。栄光やいい結果を出せたことがあったとして、それが全てと課題に向き合おうとしないなんて成長も無いですし。
まりちゃんの信念を確かめたり、小さい(レインボーイズ)のに核心をつく、とても大きな役割を、教えをしてくれて良かったです‼︎キャラも面白いです(*^▽^*)いじわるしたくなる(笑)
良くないと思うところ
サイードが、、、職場にもう戻れないだろうけれど、無断でで無くて、いきなりやめちゃったが卑怯感無くていいかなぁなんて、細かいのですが思いました。サイードいい人だし…
Shiho☆1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。確かにサイードの格が下がるという点では問題があるかもしれません。ただ機械の故障的に突然消えたとなると、、、サイードは「あんなに苦しんでいたのに一度も休まなかったサイードが」とすべきですね。ありがとうございます
2018年4月17日 15時56分 水野敬也