仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第14話

 *

 『アイエボ』オーディション二次審査の東京会場へ向かう特急列車の中で、窓枠に立っている紫堂は心配そうに言った。

 「子猫ちゃん、大丈夫かい?」

 「う、うん。大丈夫」

 そう返事をしたけど、本当は不安でいっぱいだった。

 つい先ほど、緊張のあまりトイレでもどしてしまったのだ。

 (二次審査でこんな風になってしまう私は、何千、何万という人の前で歌ったり踊ったりするアイドルになれるのだろうか……)

 不安はますます大きくなり、もう一度トイレに行こうか迷っていると、「やれやれ、困った子猫ちゃんだ」と紫堂は髪をかき上げながら言った。

 「アイドルになるための一番大事な『課題』、見つけたんだろ?」

 私はノートを取り出して開いた。

 そこには、アイドルになるために乗り越えるべき課題が書いてあり、その一番上に書かれているのは次の一文だった。

 オーディションをたくさん受ける

 紫堂は言った。

 「子猫ちゃんはこれから色々なオーディションを受けるんだろ? だったら今回は胸を借りるつもりでリラックスして臨めば良いんじゃないかな?」

 ――紫堂の言うことはもっともだ。

 初めて受けるオーディションでいきなりアイドルになるなんて、虫が良すぎる話だと思う。そんなことができるのはよっぽど才能のある人だけで、私は今後もオーディションを受けながら、色々な経験と努力を積み重ねていく必要があるだろう。

 ただ――今回は、『アイエボ』のオーディションなのだ。

 彩花は事務所の力で合格が決まると言っていたけど、万が一にも合格することができたら、あのあかりんと一緒のグループで活動できるのだ。

 (もう、こんなチャンスは一生巡ってこないかもしれない……)

 でも、合格したいという気持ちが強まれば強まるほど、不合格への恐怖心も高まっていった。

 私が不安を拭えないのを見てとったのか、紫堂は、肩をすくめて言った。

 「しょうがないなぁ、今回は特別だよ」

 そして不動は言った。

 「僕が日ごろから実践している『本番前に、自分に自信を持つ方法』を教えてあげよう」

 藁にもすがりたい気持ちの私は、紫堂の言葉に集中する。

 「じゃあ、窓に顔を向けて僕が言うのと同じ言葉を言ってみて」

 言われたとおりにすると、紫堂は、女の子口調で話し始めた。

 「『誰だろ、この可愛い子……そっか、この子もアイエボの2次審査受けるんだな。でもこんなに可愛い子が受けるんだったら私なんて絶対無理……ってこれ私じゃーん! 窓ガラスに映った私じゃーん!』。はい」

 (いや、そんなバカみたいなことできるわけないでしょ)

 そう思って断ったが、紫堂から、

 「おいおい、周囲の目にビビってるようでアイドルになれると思ってるのかい、子猫ちゃん?」

 と言われてカチンときた私は、紫堂をびっくりさせてやろうと声を張って言った。

 すると思った以上に大声になってしまい、周囲の人が何事かとこちらに振り向いた。

 私は小さくなって縮こまっていたが、しばらくすると笑いがこみあげてきた。

 「その笑顔、忘れるんじゃないぜ、子猫ちゃん」

 紫堂はそう言いながらキザな動きで私を指差した。その一連の動作からは――正直かなりウザかったけど――私をリラックスさせようとしてくれる優しさが伝わってきた。

 そういえば、レインボーイズたちと一緒にいるとき、私はいつも笑っていた。

 ときに厳しい教えもあったけれど、彼らといるときは本当に楽しかった。

 私は鞄の中からレインボーイズたちが書いてくれた色紙を取り出した。

 どの文章にも深い愛情が込められているのが分かる。

 読み返しながら感動していると、ふいに桃瀬さんの声が、桃瀬さんの声色で響いてきた。

 「仕事とは相手を喜ばせるためにするものだよ」

 (そうか……)

 そのとき私は気づいた。

 私が緊張しているのは、周囲から自分がどう見られるかばかりを気にしているからだ。

 でも、仕事が人を喜ばせるためのものなら、今日私が一番大事にしなければならないのは、目の前にいる人を――面接官を――喜ばせることだ。

 大きく深呼吸をしてから窓の外に顔を向けた。

 立ち並んだビルやマンションが次から次へと流れていき、都心に近づいているのが分かる。

 でも私は、先ほどまで感じていた強い不安が、薄らいでいるのが分かった。

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REVIEWS

評価

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良いと思うところ

最後の方の展開がとても良かったですね。悪役を演じながら一人ひとりの個性を引き出すという…まりりんは有吉ばりに、「人にあだ名をつける天才」なのかな?と思いました。

良くないと思うところ

何か、コマ切れで読むのはチョット飽きてきましたね。一気に結末まで読みたいという想いが湧いてきました。それは、山Pのことが気がかりなのに、オーディションの時が来てしまって、山Pのことは後回しにして(というかどうすることもできないのですが…)とりあえずオーディションに全力投球しているからかもしれません…話自体は面白いのに、山Pのことが心配で満足度は低いという…まりりんのオーディションでの活躍を目にしても、上の空になってしまいます。早く山Pがレインボーズを従えて復活してほしいです!

かおり
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
山Pたちの復活については色々検討の余地があるのでありがたい意見です。次回もよろしくお願いします!

2018年4月24日 16時7分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

仕事において、人生において成功するための(成功が全てではなくても)基本となる教え、正直さ誠実さ利他の心など盛りだくさんでわかりやすくてよかったです。

相手の心を動かすのは、それまでの並大抵ではない努力があった上でですが、最後はやはり真剣さと熱意をどれだけ伝えられるかだなぁと。一番シンプルなことを複雑に考え過ぎだと思わされます。

開き直る力も重要で、まりちゃんのエチュード、本領発揮で痛快、面白かったです!!

良くないと思うところ

そのまりちゃんの開き直り後のパフォーマンスが、普段とのギャップがすごすぎて(笑)山Pがのり移っているようです(笑)!

Shiho☆
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水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。エチュードの部分はざっくり書いてしまったのでもっと自然な流れになるよう調整していく予定です。今後ともよろしくお願いします!

2018年4月24日 16時9分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

本当に言ってることがすばらしいです。
相手に意識を向けるのがしんどいようで
実は自分に意識を向けたほうがしんどいんですよね。
相手を喜ばすこと。これさえ集中してやっていたら世の中の仕事なり恋愛なりの
人間関係はたいていどーにでもなりそうです。
本当にただただすばらしいです。

良くないと思うところ

書けたらいいんですけど…とくに思いつきません!すみません(ToT)

ぐち
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臼杵秀之
コメントの評価

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