仕事幸福真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル

真理―成功と幸福の秘密を知ったアイドル 第14話

  *

 二次審査の会場は、『アイエボ』を主催するレコード会社の練習スタジオを使って行われた。

 部屋の広さは一次審査とほとんど変わらなかったけど、番組中に何度も映っていた場所なので緊張と興奮は高まった。

 ただ、何よりも違っていたのは集められた女の子たちだった。

 一次試験のときよりもさらに可愛く、このままアイドルになっても通用するような子たちばかりだった。

 (こんなに可愛い子たちがライバルなんだ……)

 また不安に飲み込まれそうになったけど、目を閉じてハニーズを思い浮かべた。

 私はこの半年間、ハニーズのホールという舞台で、テーブルの前のお客さんを楽しませてきた。

 今日のお客さんは、横長のテーブルの前に一列で座っているというだけだ。

 面接室の扉が開き、私の名前が呼ばれた。一次審査のときは番号だったけど、今回は名前が書かれた名札を胸につけている。

 ハニーズの更衣室からホールに向かう気持ちで、私は立ち上がった。

 最初の審査は「歌唱力」だった。

 自分の好きな歌のサビを歌うよう言われたけど、私は用意しておいたのとは違う曲を選んだ。

 場の空気に緊張感が漂っていたので、アップテンポの曲が盛り上がると思ったのだ。ノリノリで、しかもリクエストされていない振り付けつきで歌っていると、面接官だけではなく他の女の子たちにもリラックスムードが漂ってきた。

 (もしかして、敵に塩を送っちゃった⁉)

 一瞬不安になったけど、これで良かったんだと思い直した。

 きっと本物のアイドルなら、敵味方関係なくその場にいる人全員を喜ばせるはずだからだ。

 歌唱力の審査が終わると、そのままダンスの審査に移った。

 最初に課題曲の映像を見せられて、曲に合わせて踊るよう言われた。

 まだ世に出ていない曲で、振り付けも見たことがないので見よう見まねで踊っていると、途中で振付師の人がやってきて、具体的な指導が始まった。

 (ここはすごく大事なポイントだ……)

 私は気を引き締め直し、集中して指導を聞いた。

 アイドルオーディションについてリサーチをしていたとき、プロデューサーや劇場の運営者が口をそろえて言っていたのが、「完成した人ではなく『伸びしろ』がある人を求めている」ということだった。

 振付師の人が途中から来たのも、ダンスの上手さではなく、短時間でどれだけ成長できるかを見たいからだと思った。

 私は、最初に踊ったときとの違いを意識しながらダンスを踊った。途中からは頭の中の雑念は消え去り、ひたすらダンスと向きあうだけの時間になった。

 

 「良い動きだったよ、子猫ちゃん」

 ダンスの面接が終了し、休憩時間になったのでトイレで紫堂と話した。

 面接の手ごたえはあった。

 歌もダンスも、自分らしさを出せたし、面接官の人たちが求めているものにも応えられた気がする。

 (でも……)

 だからと言って自分が合格できるとは思えなかった。歌は上手くないけど妙に惹きつけられたり、ダンスが魅力的で目が離せなくなるような人もいた。何よりも、自分の強みではない歌やダンスで高い評価が得られるとは思わなかった。

 私は紫堂に向かって真剣な表情で言った。

 「やっぱり、次の『エチュード』が勝負だよね」

 ――エチュードというのは、演劇の練習で行われる即興劇のことだ。与えられたテーマの中で、自分で勝手に台詞を考えてアドリブで演技をする。

 アイドルオーディションの題目でエチュードが取り入れられたという話は聞いたことがなかった。ただ、確かにアイドルにも演技力が求められるし、番組としても盛り上がるだろう。

 そして何よりも、このエチュードは面接官に私のことをアピールできる大きなチャンスだった。

 ただエチュードのことを知らされたのは今日が初めてで、私は何の対策もできていなかった。

 「私はどうしたら……」

 紫堂にアドバイスを求めると、彼は思いがげないことを口にした。

 「エチュードのお題が分かったよ」

 「えっ⁉」

 紫堂は得意げに続けた。

 「君のダンスを見てたらさ、僕もちょっと体を動かしたくなっちゃってね」

 そして紫堂は、いかにスパイさながらにテーブルの脚を登り、面接官の目をかいぐぐって資料を盗み見たかを力説してから言った。

 「エチュードのお題は……」

 「待って」

 私は紫堂の言葉をさえぎって言った。

 「お題は教えてもらわなくていいよ」

 「どうして?」

 「だって、私だけお題を先に知ってるのってズルいから」

 すると紫堂は言った。

 「でも、他にもお題を知ってる人もいるかもしれないよ。事務所を通じて先に教えてもらっている子もいるかもしれないよ」

 紫堂の言葉を聞いて胸のあたりに嫌なざわつきを覚えた。

 私は、彩花の言葉がひっかかっていたから、卑怯なことをしたくないと思ったのかもしれない。

 紫堂は続けた。

 「それに、アイドルになるのはすごい倍率だから、使える手段は全部使っていくという考え方もあるだろうね」

 紫堂の言葉に心が揺れた。

 本当に夢をかなえたいのなら、ライバルたちを出し抜いてでも確率を高めるべきなのかもしれない。

 でも、私は紫堂に言った。

 「やっぱりお題は知らないままで良いよ」

 そして私は続けた。

 「ハニーズで仕事を始めてから気づいたことなんだけど、何かごまかしたりズルいことをすると、後々になって問題が大きくなったりするんだよね。だから何か引っかかることはしない方がいい気がする」

 すると紫堂は、

 「うん、分かったよ」

 と言ってうなずいた。

 そのとき私は自分の判断が間違っていないという確信があった。

 ――ただ、実際にエチュードが始まったとき、自分の判断が間違っていたかもしれないと思うことになった。

好きを送るためにログインしよう!

REVIEWS

評価

12334

良いと思うところ

最後の方の展開がとても良かったですね。悪役を演じながら一人ひとりの個性を引き出すという…まりりんは有吉ばりに、「人にあだ名をつける天才」なのかな?と思いました。

良くないと思うところ

何か、コマ切れで読むのはチョット飽きてきましたね。一気に結末まで読みたいという想いが湧いてきました。それは、山Pのことが気がかりなのに、オーディションの時が来てしまって、山Pのことは後回しにして(というかどうすることもできないのですが…)とりあえずオーディションに全力投球しているからかもしれません…話自体は面白いのに、山Pのことが心配で満足度は低いという…まりりんのオーディションでの活躍を目にしても、上の空になってしまいます。早く山Pがレインボーズを従えて復活してほしいです!

かおり
1人がこのコメントに「いいね!」しました
水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。
山Pたちの復活については色々検討の余地があるのでありがたい意見です。次回もよろしくお願いします!

2018年4月24日 16時7分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

仕事において、人生において成功するための(成功が全てではなくても)基本となる教え、正直さ誠実さ利他の心など盛りだくさんでわかりやすくてよかったです。

相手の心を動かすのは、それまでの並大抵ではない努力があった上でですが、最後はやはり真剣さと熱意をどれだけ伝えられるかだなぁと。一番シンプルなことを複雑に考え過ぎだと思わされます。

開き直る力も重要で、まりちゃんのエチュード、本領発揮で痛快、面白かったです!!

良くないと思うところ

そのまりちゃんの開き直り後のパフォーマンスが、普段とのギャップがすごすぎて(笑)山Pがのり移っているようです(笑)!

Shiho☆
1人がこのコメントに「いいね!」しました
水野敬也
コメントの評価

 著者からの返事

感想ありがとうございます。エチュードの部分はざっくり書いてしまったのでもっと自然な流れになるよう調整していく予定です。今後ともよろしくお願いします!

2018年4月24日 16時9分 水野敬也
水野敬也
評価

12345

良いと思うところ

本当に言ってることがすばらしいです。
相手に意識を向けるのがしんどいようで
実は自分に意識を向けたほうがしんどいんですよね。
相手を喜ばすこと。これさえ集中してやっていたら世の中の仕事なり恋愛なりの
人間関係はたいていどーにでもなりそうです。
本当にただただすばらしいです。

良くないと思うところ

書けたらいいんですけど…とくに思いつきません!すみません(ToT)

ぐち
1人がこのコメントに「いいね!」しました
臼杵秀之
コメントの評価

ページトップに戻る