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エチュードのメンバー構成は、歌唱やダンスの面接を受けたメンバーとは違っていて、その中に彩花の名前を見つけた。
「なんであんたがいるのよ」
彩花にそう言われ、
(それはこっちの台詞なんだけど⁉)
と思ったけど、波風を立てないように「お互い頑張ろうよ」と返した。
――500人近くの人が残っている2次審査で偶然同じメンバーになる可能性はかなり低い。ということは、彩花と私が同じ高校であることや、そもそも彩花が私を推薦していることで、何か面白い展開があると期待されているのかもしれない。
私たちの名前が呼ばれ部屋に入ると、部屋の中央に椅子が円形に置かれていた。
椅子の上に名前が書かれた紙が置いてあり、席順も指定されていた。
部屋には何台もカメラが設置されており、さらに手持ちカメラでカメラマンが至近距離から私たちを撮っている。
全員が席についてしばらくすると、演出家の渋江さんという人が現れ、歩きながら話し出した。舞台の世界ではかなり有名な演出家らしい。
彼はエチュードについてもう一度説明をしたあと、
「それではお題を発表します」
と言い、十分に間を取ってから続けた。
「あなたたちは、同じアイドルグループのメンバーです。そして、この中に一人、ソロデビューが決まった人がいます」
渋江さんがパン! と手を叩いて「スタート!」と宣言すると部屋に緊張感が走り、カメラマンが動き出した。
(ど、どうすればいいの?)
私は残り8人の様子をうかがいながら頭を高速回転させた。
最初に発言した方が良いのか、もしくは様子をうかがうか。
また、お題も、ソロデビューが決まった人が誰なのか推測する場にするのか、すでにソロデビューが決まっている子がいて、その子との関係で芝居をするのか、様々な可能性が考えられる。
しかし――。
一人の動きによってそんなことを考える暇はなくなってしまった。
突然、彩花が泣き始めたのだ。
「うう……」
彼女はぼろぼろと涙を流し、本格的に泣いている。
(す、すごい――)
いきなり涙を見せることができるという演技力に、みんなの視線もカメラも釘づけになった。
彩花は言った。
「私……言わなきゃ……いけないことがあって」
すると周りの女の子たちは、
「どうしたの彩花」
「泣いてちゃ分かんないよ。はっきり言いなよ」
と合いの手を入れ始める。
彩花は泣きながら続けた。
「実は……私、ソロでデビューしないかって、前から言われてたんだ……でも私……みんなと一緒じゃなきゃ……」
彩花がたどたどしい口調で続けていると、
「何言ってんの、彩花。すごいチャンスだよ」
「私たちのことはいいから頑張りなよ」
他の女の子たちは応援する側で芝居をし始めた。
(まずいな……)
私は場の流れを見ながら焦り続けた。
彩花のリアルな涙に引きずられて、みんな「いい子」の立場で演技をしてしまっている。でもそれだとその他大勢の一人になるだけで、輝くのは彩花だけだ。
この状況を変えるには、彩花と反対の立場を取る必要がある。でも、その演技は相当性格の悪い人間を演じることになってしまう。
私は、彩花にとってあまりにも都合の良い流れになっているので、
(彩花は事前にお題を知っていたのかも……)
そんな考えが思い浮かんできたけど、すぐに頭から追い出した。
私が考えるべきことはただ一つ。
目の前の人を喜ばせること。
だとしたら、やるしかない。
テレビカメラが何台も回っている前でそれをやるのは勇気がいるけれど――私が山Pから教えてもらった一番大事なことは、勇気を出して挑戦することなのだから。
私は立ち上がり、彩花に向かって言った。
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評価
良いと思うところ
最後の方の展開がとても良かったですね。悪役を演じながら一人ひとりの個性を引き出すという…まりりんは有吉ばりに、「人にあだ名をつける天才」なのかな?と思いました。
良くないと思うところ
何か、コマ切れで読むのはチョット飽きてきましたね。一気に結末まで読みたいという想いが湧いてきました。それは、山Pのことが気がかりなのに、オーディションの時が来てしまって、山Pのことは後回しにして(というかどうすることもできないのですが…)とりあえずオーディションに全力投球しているからかもしれません…話自体は面白いのに、山Pのことが心配で満足度は低いという…まりりんのオーディションでの活躍を目にしても、上の空になってしまいます。早く山Pがレインボーズを従えて復活してほしいです!
かおり1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。
2018年4月24日 16時7分 水野敬也山Pたちの復活については色々検討の余地があるのでありがたい意見です。次回もよろしくお願いします!
評価
良いと思うところ
仕事において、人生において成功するための(成功が全てではなくても)基本となる教え、正直さ誠実さ利他の心など盛りだくさんでわかりやすくてよかったです。
相手の心を動かすのは、それまでの並大抵ではない努力があった上でですが、最後はやはり真剣さと熱意をどれだけ伝えられるかだなぁと。一番シンプルなことを複雑に考え過ぎだと思わされます。
開き直る力も重要で、まりちゃんのエチュード、本領発揮で痛快、面白かったです!!
良くないと思うところ
そのまりちゃんの開き直り後のパフォーマンスが、普段とのギャップがすごすぎて(笑)山Pがのり移っているようです(笑)!
Shiho☆1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価
著者からの返事
感想ありがとうございます。エチュードの部分はざっくり書いてしまったのでもっと自然な流れになるよう調整していく予定です。今後ともよろしくお願いします!
2018年4月24日 16時9分 水野敬也評価
良いと思うところ
本当に言ってることがすばらしいです。
相手に意識を向けるのがしんどいようで
実は自分に意識を向けたほうがしんどいんですよね。
相手を喜ばすこと。これさえ集中してやっていたら世の中の仕事なり恋愛なりの
人間関係はたいていどーにでもなりそうです。
本当にただただすばらしいです。
良くないと思うところ
書けたらいいんですけど…とくに思いつきません!すみません(ToT)
ぐち1人がこのコメントに「いいね!」しました
コメントの評価